ぎゅって抱き締めて。
お母さんにそうお願いしたら、僕のことをそのあたたかな腕の中に抱き寄せて、僕が満足するまで離さないでいてくれた。
頭を何度も撫でてくれたし、大好きだよって何回も言ってくれた。
柔らかなお母さんの感触に包まれていると、ずっとそうしていたくなる。
でも僕は意を決して顔を上げ、お母さんの腕の中から離れた。
「もう、大丈夫」
もう僕は充分にお母さんを堪能したから。
「次は産まれてくるこの子を、ぎゅってしてあげてね」
そう言ってお母さんの大きなお腹をさする。
本当はもっと子供のままでいたかったけど。
でも、お兄ちゃんになれることも楽しみだから。
僕は子供のままをやめて、一歩大人になった。
【子供のままで】
狂おしいほどの咆哮が、自分の内側から迸る。
手のひらを伝う温い赤色が、止めどなく溢れでるたびに、抱き寄せる彼女の身体から、あの柔い温度が失われていくのが分かった。
ああ、どうして、俺は。
こんなふうになってからしか気付けなかったのだろうか。
身を裂くほどに湧き上がるこの衝動が、優しい彼女が俺に教えてくれた、愛というものならば。
いっそのことこのまま。
声が枯れ果てるまで叫び抜いて。
冷たくなっていく彼女と一緒に。
消え失せていってくれればいいのに。
【愛を叫ぶ。】
視界の端に
白い君が
ふわりと舞う姿を見付けた
ああ
なんていい春だろう
【モンシロチョウ】
いつまでも。
忘れられない想い出ばかりを与えて。
私を置いていってしまった、あなた。
ああ、なんて残酷で。なんて無慈悲なの。
あなたの優しそうな笑顔ばかりが脳裏に浮かぶ。
忘れられないほど、たくさん貴方が私に笑いかけてくれたせいで。
まるで呪いみたいに。
いつまでもあなたが私を蝕んでいってるの。
【忘れられない、いつまでも。】
一年後にまた会いに来る。
そう言って固い握手を交わしたはずの友人は、半年もたたないうちに俺の元へとやって来た。
おい、こら、どうしたんだと。
約束の一年はまだ先だろうと問い質してやると、友人は「あれ? もう一年くらい経ったと思ってた。お前がいないと毎日が退屈でさ、時間が経つのも長く感じたからそのせいかも」と、実にあっけらかんしとした様子で宣ってきたものだから、俺は「バーカ。なら旅に出るなんて言って、俺を置いていくなよ」と叱ってやった。
【一年後】