Yushiki

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5/13/2023, 4:47:00 AM

 ぎゅって抱き締めて。

 お母さんにそうお願いしたら、僕のことをそのあたたかな腕の中に抱き寄せて、僕が満足するまで離さないでいてくれた。

 頭を何度も撫でてくれたし、大好きだよって何回も言ってくれた。

 柔らかなお母さんの感触に包まれていると、ずっとそうしていたくなる。

 でも僕は意を決して顔を上げ、お母さんの腕の中から離れた。

「もう、大丈夫」

 もう僕は充分にお母さんを堪能したから。

「次は産まれてくるこの子を、ぎゅってしてあげてね」

 そう言ってお母さんの大きなお腹をさする。

 本当はもっと子供のままでいたかったけど。

 でも、お兄ちゃんになれることも楽しみだから。

 僕は子供のままをやめて、一歩大人になった。



【子供のままで】

5/11/2023, 11:05:29 AM

狂おしいほどの咆哮が、自分の内側から迸る。
手のひらを伝う温い赤色が、止めどなく溢れでるたびに、抱き寄せる彼女の身体から、あの柔い温度が失われていくのが分かった。

ああ、どうして、俺は。
こんなふうになってからしか気付けなかったのだろうか。
身を裂くほどに湧き上がるこの衝動が、優しい彼女が俺に教えてくれた、愛というものならば。

いっそのことこのまま。
声が枯れ果てるまで叫び抜いて。
冷たくなっていく彼女と一緒に。
消え失せていってくれればいいのに。



【愛を叫ぶ。】

5/10/2023, 10:14:14 PM

視界の端に
白い君が
ふわりと舞う姿を見付けた

ああ
なんていい春だろう



【モンシロチョウ】

5/9/2023, 1:25:04 PM

いつまでも。
忘れられない想い出ばかりを与えて。
私を置いていってしまった、あなた。

ああ、なんて残酷で。なんて無慈悲なの。

あなたの優しそうな笑顔ばかりが脳裏に浮かぶ。
忘れられないほど、たくさん貴方が私に笑いかけてくれたせいで。

まるで呪いみたいに。
いつまでもあなたが私を蝕んでいってるの。



【忘れられない、いつまでも。】

5/9/2023, 7:00:07 AM

 一年後にまた会いに来る。
 そう言って固い握手を交わしたはずの友人は、半年もたたないうちに俺の元へとやって来た。
 おい、こら、どうしたんだと。
 約束の一年はまだ先だろうと問い質してやると、友人は「あれ? もう一年くらい経ったと思ってた。お前がいないと毎日が退屈でさ、時間が経つのも長く感じたからそのせいかも」と、実にあっけらかんしとした様子で宣ってきたものだから、俺は「バーカ。なら旅に出るなんて言って、俺を置いていくなよ」と叱ってやった。



【一年後】

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