「ここに桜を植えようと思う」
そいつは高らかにそう宣言した。
「はぁ」
と、私はまた訳のわからないことをと思って気のない返事を返した。そうしたらそいつは、「なぜそんなに素っ気ない!」と、心底驚いたように叫ぶ。
「また突飛なことを考えたと思ってな。こんな村から離れた人もほとんど通らない場所になぜわざわざそんなものを」
「桜は春の象徴だぞ。植えたら綺麗だろうが」
「いや、知らんし」
「とにかく俺はここに植えると決めたんだ!」
まあ勝手にしろと、私は何気なく答えた。そしたらそいつは本当に勝手にして、どこからか桜の苗木を運んできてはそれは嬉しそうに、「咲いたら一緒に花見をしよう」なんて言ってきた。
花見なんてできるわけないだろう。桜が立派に育った頃にはお前は生きていないだろうと、そう告げてやっても、そいつは変わらず満面の笑みだった。
そうして月日は流れていった。
人の営みは移り変わり土地もどんどん開けていった。何もなかったはずのこの場所も今やたくさんの人間が周りに住むようになったが、何故かあいつが植えた桜は長年切られもせずに残り、今は花見の名所のいちだい桜として有名になっている。
あいつがいなくなってから私の姿が見える人間もだいぶ減った。それでも私はまだあいつが桜を植えたこの場所に留まっている。
「まったくお前が花見をしようなんて約束するからだ」
毎年この季節になると満開の桜の木の下で人間達が思い思いに騒ぎ始める。なんとも馬鹿らしくてうるさい奴らだと思いながら、その人間達の笑い顔があいつの豪快で自由気ままな笑い方にそっくりで、ついこの騒がしくもあたたかい日を影から見守ってしまうのだ。
【春爛漫】
※前回のを読んでから一読するのをおすすめします
優しくて誠実なあなたを
私は不幸にしてしまった
ごめんなさい
私を庇ったせいで
あなたに取り返しのつかない
怪我を負わせてしまって
でもね
あなたを不幸にするばかりの私だけれど
それでもこれだけは想わせてほしいの
私は
【誰よりも、ずっと】
あなたのことを愛してて
今も変わらず愛し続けてるって
美しくて聡明な君は
僕なんかにはもったいない
僕はお金もなく学もないし
昔あった事故のせいで
顔も醜く歪んでる
君を幸せにできる甲斐性なんて
これっぽちも持ち合わせてはいないけれど
たったひとつだけ
君に捧げられるものがある
僕は
【これからも、ずっと】
変わらずに君のことを愛し続ける
それだけは絶対に約束できるよ
休憩時間も忘れるくらい
がむしゃらに頑張る日々が
毎日毎日続いていた
ようやく抱えていたものが一段落ついた
ある日の帰り道
ふと視線を上げれば
地平線へと沈んでいく
オレンジ色の夕日が目に止まる
きっと昨日も変わらずに
沈む夕日はそこにあったんだろうけど
いま自分の目に映った夕日が
見たこともないくらいに眩しく思えて
ああ僕はもう休んでいいんだと
自分に優しくしていいんだと
安心したら視界が滲んだ
【沈む夕日】
君の目を見つめるといてもたってもいられなくなった。
まるで自分の汚い部分が全て見透かされているようでたまらなくなったのだ。
だから君を殺した。
これでもう怯えなくて済むと思ったのに。
どうしてだろう。
君と同じ目をした人間がそこらじゅうにいるんだ。
【君の目を見つめると】