ぐしゃり、ぐしゃりと、枯葉を踏む。
苛ついた心を叩きつけるように、強く踏みつける。
おさまらない怒りはどうしようもなくて、あまりの悔しさと情けなさに涙まで滲んできた。
怒りの魔人と化した私が、傍若無人に闊歩する。それでも大地に敷かれた枯葉の絨毯は、ぐしゃり、ぐしゃりと、小気味よい音を鳴らし続けた。
頑張れ、頑張れ。
行け行け、GO、GO!
まるで荒んだ私の気持ちを、鼓舞するみたいに。
【枯葉】
遠くの地へと去る君へ。
君と過ごしたいくつもの日々が、僕の人生を色鮮やかなものへと変えました。
君と過ごした今日はもう帰らないけれど。
さようなら。
どうかお元気で。
そしていつかまた。
会う日まで。
【今日にさよなら】
あれ、いいな。あ、あれも好き。
これすごくかわいいし、これなんか逆に奇抜すぎてウケる。
彼女と一緒のショッピング。
僕の彼女は好奇心が旺盛で、いつも目にしたあらゆるものに興味を持つ。
これ終わったら前々から気になっていた中華のお店に行かない?
あ、でも、さっき見かけたイタリアンのお店も気になるな。
何事にも冷めていると他人から指摘される僕にとって、彼女のこのバイタリティは尊敬に値するほどだった。
「ねぇ、今日いっぱい連れ回しちゃうかもしれないけど、いいかな?」
「もちろん。どこへでもお供いたしますとも」
そう返せば、やったぁと彼女が手を叩く。
またお気に入りの店が増えちゃいそうと、満面の笑顔を溢す彼女の姿が、僕にとっての一番のお気に入りであることは内緒だ。
【お気に入り】
誰よりも君を想う。
君がいなくなった世界でこれからもまだ生きていくために。
そんな独り善がりを今だけは許して。
【誰よりも】
10年後の私から届いた手紙。
幸か不幸か。
そんな代物がいま私の目の前にある。
これは神様の悪戯なのか。
それとも悪魔の罠なのか。
封を開いた瞬間、魔のデスゲームの始まりだなんて、どこぞの漫画みたいな展開になったりはしないだろうけれど。
こんなものは読まずに捨てしまったたほうが賢明か。
いやいやでも、めっちゃ重要なことが書いてあったら困るし。やっぱりいちおうは確かめておくべきか。
私はおそるおそる封を切った。
中にあった二つ折りになっていた紙片を、ゆっくりと開く──。
「ああ! やっぱ無理!」
一文字目を読もうとしたところで、手紙の文面を机へと伏せる。
「怖い、怖い。こんなの。未来からの手紙なんて、絶対に読んだら最後のやつじゃん。絶望的な未来を変えるために過去を今から改善していきましょうって事でしょ。ふざけんなよ、私。私を誰だと思ってるの。お前だぞ!」
卑屈と怠惰が服着て生きてるような奴だぞ。
誰かに何かを期待されたこともなければ、私が私をもう諦めているほどに落ちぶれているんだからな!
「ちくしょう・・・・・・。何で私に手紙なんか書いたんだよ」
私なんてなんにもできないのに。
埋もれては不貞腐れてばかりなのに。
10年後の自分から見た私は、いったいどんなふうに映っているんだろう。期待してもいいくらいには輝いて見えるのだろうか。
私は一度目を閉じて深呼吸をした。机にあった紙を両手に持ち、伏せてあった文面は自分の方へと向ける。
「よし!」
私はカッと目を見開くと、白い紙に並んだ文字へと意識を集中させた。
【10年後の私から届いた手紙】