~少年期~
その大きな時計は、秒針を響かせていた。木製のその時計は、いつもリビングに置いていた。お父さんによると、先代がとても大切にしていた時計らしい。どうして時計を変えないのかを聞くと、その先代の遺言に「絶対に他の人に渡したり、壊さないでくれ。」と書かれていたからだ。
…何故12時を指したまま動かない時計を変えないのだろう。
~成人期~
大人になって、結婚して、娘も出来た。あの時計は相変わらず12時を指している。それでも、父の存在や先代の存在を感じられた。
「ねぇパパ!このとけい、うごかないのなんで?」
「それはね、お父さんの…いや、家族の大事なものなんだ。だからずっとリビングに置いているんだ。」
「へーそうなんだ!」
娘を撫でながら、12時を指している針を見続けた。
~高齢期~
娘が嫁に行き、嫁と共に年老いていった。もうじき、生きていけないだろう。そうだ、あの時計に思い出を入れよう。子供の頃に流行っていたオモチャに、嫁や娘からのプレゼント。これは誰にも内緒にしておこう。
12時、それを見るたびに先代を思い出す。
~???~
ふらふらと辺りを歩く。よろよろになりながら、食料を、水を、人を探す。ふと、ポツンとたった何かを見つけた。人ではない何かを。その何かは、時計だった。それは12時を指していた。…何故だろう、見たことがある。この時計は……
「お…父……さん……?」
何故か、その人の面影がした。時計の下を開くと、思い出の物が詰まっていた。この下手くそな似顔絵も、ビーズを紐で通したブレスレットも、今では懐かしい。
「ただいま、お父さん。」
私は、その時計を抱き締めた。
波音と砂音 それは静かなデュエット
小さい歩幅のその先に 巻き貝が1つ
白と茶が混じるその色は
色褪せた思い出を 思い出しそうで
理由なく溜まる雫
その味は塩っぽかった
それを耳にかざして 目を閉じた
~きらめき~
何も見えない、辺り一面何もかも。手探りをすると、固い土のような感触がする。ここはどこだ。どうしてここにいるのか分からない。それに、記憶も無い。暗闇の先に微かな希望を抱き、先を歩いて行った。
しかし、歩いても歩いても、この先は暗闇しかない。諦めを感じつつも前に進んだ。
長時間の末、ついに見つけた。微かに煌めく光を。それは、辺りを照らす街頭のような、半透明のオレンジの石が埋め込まれたネックレスだ。その煌めきに懐かしさを感じた。
~
あれは、小さい頃の話。川辺で石拾いをしていた時だ。その時に何か煌めくものを見つけた。少しひび割れた石のネックレスが石と石の間に挟まれていた。それは誰のものか分からない、貰い物か買ったものか分からない。ひび割れたその綺麗なネックレスを放って置くわけにはいかなくて、確か木の影に置いといたんだ。
~
でも、どうしてこんな所に?そう思いながらネックレスに触れる。すると、辺りがパッと明るくなった。まるで、自分の為の灯りのように。灯りのお陰で道が見えてきた。こうなったら出口まで走るのみだ。
~
遂に光が見えた。外に出るとあの時の川辺にいた。ふと、ネックレスの裏を見てみると、こう書いてあった。
『私はあなたを照らす』
些細なこと ~心残りについて~
心残りというのは、誰だってあること。それはどうでもいい事だったり、重要な事だったり、様々である。私の言う心残りとは?今考えると、それは分からない。深く考えようとすると、頭がぼんやりしてきて、考えようとすると忘れてしまう。とても変なことだ。
さて、あなたが考える心残りとはどんなものか。ほとんどの人は後悔と答えるのだろう。しかし、後悔以外にもきっと、何かあるだろう。