~少年期~
その大きな時計は、秒針を響かせていた。木製のその時計は、いつもリビングに置いていた。お父さんによると、先代がとても大切にしていた時計らしい。どうして時計を変えないのかを聞くと、その先代の遺言に「絶対に他の人に渡したり、壊さないでくれ。」と書かれていたからだ。
…何故12時を指したまま動かない時計を変えないのだろう。
~成人期~
大人になって、結婚して、娘も出来た。あの時計は相変わらず12時を指している。それでも、父の存在や先代の存在を感じられた。
「ねぇパパ!このとけい、うごかないのなんで?」
「それはね、お父さんの…いや、家族の大事なものなんだ。だからずっとリビングに置いているんだ。」
「へーそうなんだ!」
娘を撫でながら、12時を指している針を見続けた。
~高齢期~
娘が嫁に行き、嫁と共に年老いていった。もうじき、生きていけないだろう。そうだ、あの時計に思い出を入れよう。子供の頃に流行っていたオモチャに、嫁や娘からのプレゼント。これは誰にも内緒にしておこう。
12時、それを見るたびに先代を思い出す。
~???~
ふらふらと辺りを歩く。よろよろになりながら、食料を、水を、人を探す。ふと、ポツンとたった何かを見つけた。人ではない何かを。その何かは、時計だった。それは12時を指していた。…何故だろう、見たことがある。この時計は……
「お…父……さん……?」
何故か、その人の面影がした。時計の下を開くと、思い出の物が詰まっていた。この下手くそな似顔絵も、ビーズを紐で通したブレスレットも、今では懐かしい。
「ただいま、お父さん。」
私は、その時計を抱き締めた。
9/6/2023, 11:14:49 AM