『言葉にできない』
昨日美容室へ行って来た。これから暑い中、園児達と庭で遊ぶ事も多くなる。なのでちょっと短いかな?と思うくらいのショートにしてみた。
朝、職員室へ入ると私を見た園長が一瞬言葉を飲み込んだ。が、直ぐに「スッキリしたわね」とだけ言い残し、何処へ行ってしまった。そんなに似合わなかったかなあ‥。園長の表情が気になりながらも私は教室へ向かった。
「先生どうしたの?その頭」
教室へ入ると一斉に園児達が寄って来た。
「なんか、おさるさんみたーい!」
廊下の柱の影からこちらを伺う園長が見える。きっとこれはさっき園長が言葉にできなかった言葉だろう。だが園児達はそれを易々と口にしたのだった。
『春爛漫』
季節のイベント列車「春爛漫号」が今年から運行を開始する。4月の毎週日曜日、北上しながらの約1時間、しかもSLの旅だ。
事前予約は早くからいっぱいで、抽選会が行われる事になった。そんな中、私は幸運にも第1回の運行チケットを手に入れることが出来た。
駅を人々の大歓声の中出発したSLは、街中を抜け田畑や川を越えて行く。そこかしこに咲く春の花の数と同じくらい、線路沿いに沢山の人達がいて、皆笑顔でSLに手を振っている。
そんな気持ちが嬉しくて、私も中からずっと手を振り続けた。
『誰よりも、ずっと』
私には一人娘がいる。身体の弱い私がやっと産んだ娘は未だに愛おしくて仕方がない。小さい頃は何をするにしても私の後を追った娘。そんな娘の姿に自分は無くてはならない存在なのだと嬉しく思った。
物わかりの良い娘との楽しい生活が一変したのは、
娘の結婚だった。突然「もう私にかまわないで」と
勝手に結婚相手を決め家を出て行ってしまった。
悔しいわね‥。今まで誰よりもあなたの近くに居たのは、ずっとお母さんだったのに。
まあいい。その内絶対に困る事が起こる。そして私を頼る日がやって来る。そうすればまた、私はあなたの為に生きて行ける。
『これからも、ずっと』
一人娘の私は、小さい頃から両親の愛情を存分に受けて育った。得に母は私が困らない様にいつも気を遣い、やりたい事は何でも叶えてくれた。
今思えばそれは、過保護や過干渉の域であったのだが、母はそれが当たり前で、そうする事が生き甲斐だった。
私はいつしかそんな母に疑問を持ち、逃れる様に結婚して家を出た。最初は大泣きしながら帰って来いと電話をかけてきた母だがようやく諦めたようだ。と思ったら、今度は毎日荷物が届く。
「必要な物は無い?また明日も送るからね」
きっと何を言っても通じないのだろう。
そして、これからもずっとこれが続いていくのだ。
『沈む夕日』
今日初めて、彼女の住む街へ行った。遠距離恋愛になって3ヶ月、久しぶりに2人で楽しい1日を過ごすことが出来た。
日も大分傾いたが帰りの電車の時間にはまだ少しある。すると彼女が見せたいものがあるから‥と歩き始めた。夕日に染まる海沿いの道を暫く進む。
小さな公園に着くと、そこには車やバイクが何台も停まっていた。「ここは夕日がとっても綺麗に見えるの。でね、あなたにこれから5分間動けない魔法をかけるから」
2人並んで海に近付く大きな夕日を見る。今迄黄色だった夕日が徐々に濃くなっていく。そして最後には燃えるようなオレンジ色に変わった。それからその熱を冷ますかのように夕日はゆっくりと海に沈んでいった。なんて綺麗なんだろう‥
身動ぎせずにそれを見ていた僕は、本当に彼女の魔法にかかったようだった。