『エイプリルフール』
眠れない夜、時々ネットで知り合った彼女と他愛もない話しをする。会話上手な彼女はいつも楽しくて気付くとあっという間に時間が過ぎていた。
ところがある日、偶然彼女の別垢を見付けてしまった。書き込みを覗くと名前こそ伏せてあるものの、明らかに自分を誹謗中傷している。最初は思い当たる節もなく言われる事に抵抗があったが、それ以上に楽しさが勝ち、だったら自分が見なければいいと割り切った。
今夜も彼女と楽しい時間を過ごした。
よせば良いのにまた彼女の別垢を覗く。
「いつまで話してるの?ほんとウザい」
今日はエイプリルフール。彼女の言葉は嘘だと思いたい。
『ないものねだり』
「もう!私の髪の毛ってどうしてこんなに
枝毛だらけなの!」
「そんな事無いわよ。蘭の髪はとっても綺麗よ」
「おばあちゃんは枝毛が無いから
そんな事言えるんだよ!」
「あら、おばあちゃんだってこんなに白髪で‥
蘭みたいな長い黒髪が羨ましいわ」
「でもおばあちゃんは切れ毛も無いじゃん!」
「おいおい朝から騒がしいな。じいちゃんは
2人の髪があんまりフサフサで羨ましいぞ」
『好きじゃないのに』
私の名前は河野 鮎。
自己紹介すると大体皆に直ぐ覚えて貰える。
そして何処でも同じような事を聞かれる。
「もしかしてお父さんて釣りが趣味?」
「お母さんは魚料理が得意とか?」
「鮎さんて、アユ食べるの好き?」
実はどれもこれも当てはまら無い。
お父さんは釣りはやらないし
お母さんは魚料理は苦手だ。
全部違うよの答えに、皆の「えー‥」迄の
やり取りがいつものセット。
でも最後に言うの。
私はアユは好きじゃないのに
自分の名前は大好きだよ。
『ところにより雨』
天気予報は晴れのち曇り、ところにより雨。
ここは雨が降るだろうか、それとも降らない
だろうか‥。今日の微妙な天気に空を見上げる。
そうでなくても日照時間の少ない地域、
今の晴れ間に少しでも外に洗濯物を干したい。
もし雨が降ったらまた洗い直しだな‥と
思いつつ庭に洗濯物を出す。
これから出掛けて帰りは午後3時。
それまで天気がもつかもたないか。
この勝負、私は勝つ事に賭ける。
『バカみたい』
就職して1年、ようやく仲良し3人組の飲み会が
行われた。久しぶりに会うふたりだが、あの頃と
変わらず楽しい時間が共有出来るのが嬉しかった。暫く飲んでいると突然美紀が言った。
「ねぇ。5年経ったら皆でハワイに行かない?」
いいね!是非そうしよう、とあの日約束してから
私は給料日になるとハワイ貯金と称して、毎月決め
た額を積み立てていった。年に一度の飲み会で
ハワイまで後何年だね、なんて話しをするのも
楽しかった。
ところが、5年目の飲み会で美紀が最近彼と一緒に
ハワイに行ったと嬉しそうに報告して来た。それを聞いた優子も、実は私も彼と先月‥と。
私はハワイ談義で盛り上がる2人に笑顔を向けながら、ひとり最後まで約束を信じていた自分がバカみたいに思えてならなかった。