『二人ぼっち』
夜7時、お隣のおばあちゃんが慌ててやって来て
お母さんと深刻な顔で話し出した。暫くして
「優花、ちょっと来て」と呼ばれた。
「お隣のおじいちゃんの具合が悪くてね、これから
お母さんが車で病院まで連れて行くから、お父さんが帰って来るまで真衣と留守番をお願いね」
保育園の妹と二人ぼっちになった。
いつも喧嘩ばかりしているがこの時ばかりは
それどころでは無い。心配顔の妹に大丈夫だよ
と言う私も本当は不安だ。外に強い風が吹く。
家がきしむ。それだけの事なのに、何か恐ろしさを感じて肩寄せあった。
「あらあら‥」
リビングで座りながらひとつの毛布にくるまるって
寝るふたりの姿を見て、お父さんとお母さんは
よく頑張ったねと小さく声を掛けた。
『夢が醒める前に』
私の誕生日にはパパとママと一緒に
食べ放題のお店に行く約束をしていたの。
朝起きるとパパが部屋来て「さあ、食べ放題に
行こう。タクシーが待ってるよ」
玄関を出ると象のタクシーが待っていて
皆で背中のカゴに乗ってゆらりゆらり揺れながら
お店に着いた頃にはもう閉店してて‥
大泣きしながら目が覚めた。ああ、夢か。
するとパパが来て「食べ放題に行こう」
パパの車でちゃんとお店に着いたから
今度はたぶん大丈夫。
焼き肉とお寿司とケーキをお皿に盛って座ると
隣の席に大好きなはっぴぃ☆ふぁいぶのユウリが!
‥え、これは夢?それとも現実?どっち?どっち?
どっちにしても夢が醒める前に、早くサインを貰うんだ!
『泣かないよ』
りにんしきって、1年生の時にもあったなぁ。
先生達は何年かしたら他の学校へ行かないといけなんいんだって。でも泉先生は関係ないよね。
だって3年生になっても絶対先生が担任だもの。
そう思って迎えた離任式。移動する先生達が
ステージに並ぶ。その中に泉先生の顔が‥
驚きと悲しみで気が付くとボロボロと泣いていた。
周りで皆も泣いていた。
「そんなに泣かないんだよ。またいつか
会える日が来るかもしれないから」
最後の帰りの会で先生は言った。
「楽しい2年間を本当にありがとう。
皆、元気で。さような‥」
最後の言葉が涙で詰まる。目頭を押さえる
先生の姿に、私達はまた号泣した。
『怖がり』
大好きだったおばあちゃん。
今はもういないけど、いつも側で
私を見守っていてくれる気がする。
皆とテレビを観ている時
妹と楽しく遊んでいる時
1人机に向かって宿題をしている時
何故かどこからかふと、視線を感じるときがある。
そんな話しを怖がりの妹にすると泣きそうに
なるけど、私はおばあちゃんがたとえお化けに
なっても会いに来てくれたら嬉しい。
あ、また。
時々、22時を過ぎると勝手に部屋の電気が
消えるの。きっとおばあちゃんが、もう遅いから
寝ようねって消してるんじゃないかな。
『もっと知りたい』
会社の良子さんは黒髪の素敵な10個上の大先輩。
そのヘアケアの秘訣がどうしても知りたくて
何度もお願いしたら「じゃあ、特別にあなただけに
教しえてあげる。家に夕飯を食べにいらっしゃい」
と誘ってくれた。
スパイスの効いたエスニック風の手料理は
どれもこれも美味しかった。
ところが肝心の話しが中々始まらない。
すると良子さんはそれを察してか、奥から
大きなかごを持って来た。
「コオロギよ」
中にはこれでもかと虫がひしめきあっている。
驚きのあまり言葉を失っていると
「昆虫食はね、優秀なタンパク質源なの。
髪にいいかなって思ってね」
‥と言うことはさっきの料理に‥も?
「ふふ。もっと知りたい?実は今日のスープ
には‥」