水晶

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3/3/2024, 12:21:45 AM

『たった1つの希望』

このうどん屋もそろそろ50年。
ばあさんと2人必死で働いて来た甲斐あって
連日客足の絶えない店になった。
だが体力の衰えには逆らえず
近々店の進退を決めなければならない。

そこでふと思い出したのが孫の悠人だ。
小さい頃は店によく食べに来てくれた。
うどん嫌いの1人息子とは違って
「ぼく、つるつる大好き」
「大きくなったらぼくもお店屋さんになる」
と言っていた。やっぱり悠人しかいない。
たった1人、じいちゃんの希望の光は悠人だけだ!

「もしもし、あ、お義父さん、ご無沙汰して
おります。はい‥皆元気にしています。
え?悠人ですか?悠人は随分前に学校を卒業して
今は念願のそば屋になりました」

3/1/2024, 7:10:42 AM

『列車に乗って』

今日は列車に乗って何処へ行くんだろう。

お父さんが電車好きだから家に沢山電車の本が
あって、それを見ていたお兄ちゃんも電車が
大好きになった。でもゆいはそれほど好きじゃ
無い。まあ、嫌いでもないけど。

今、3人で列車に乗っている。
何度も駅に停まって、乗り換えをして
さっき走る景色を見ながら駅弁も食べた。
さろそろ2時間経つけどまだ着かないの?

お父さんに聞くと
「今日は色んな列車に乗って、色んな線路を巡る
旅だよ」と言った。
え‥それだけ?

夕方家に着くと、家で待っていたお母さんに
お兄ちゃんが
「今日は1日色んな所に行って楽しかった!」
でもゆいは、今日は1日何処にも行かなかった!
って言ったの。

2/28/2024, 8:26:29 AM

『現実逃避』

さあ、急げ急げ。時間は15分しかないぞ。

僕は特別なスーツに身を包み、銀の四角の中で
モジーを使って白い大きなマイを35個に分ける。
最初、均等に分けるのが難しかったが
一週間もすると慣れて難なく出来るようになった。

出来上がったマイの塊を丸い入れ物に1つずつ
入れればミッションクリアだ。
後残り2つ‥になった時、後ろからオヴァの
「スギー!何してるの!?」の声が聞こえた。

「杉井君!何してるの!?
お皿にご飯をよそう時はしゃもじを使って
もっとこうふんわりと‥」
大場先生は呆れながら僕に言う。

それを側で見ていた同じ給食当番の凜が
「杉井また何処かに逃避してたんでしょ。
早く現実に戻って」と笑った。



2/27/2024, 8:21:27 AM

『君は今』

スーパーの駐車場に車を停めると
入り口から子供達の声が聞こえて来た。
今日は近くの小学校の校外学習らしく
児童が行き交う人々に何か話し掛けている。

「3年生の総合の授業で、暮らしと
リサイクルについて勉強しています」
先生に促され側に来た女の子は
おどおどしながら私にパンフレットを渡した。
『美しい景色を未来に残すために今出来ることを』
パンフレットにはそう書いてあった。

そうだね‥。
君達は今、出来る事を頑張っていると思う。
知らない大人に話し掛けるのって勇気いるからね。



2/25/2024, 7:03:45 AM

『小さな命』

今日は小さいお地蔵の帽子を新しい物に替えた。
子供がいないのでベビー用品を買うのはこの時
ぐらいだ。
義母がいた頃はお地蔵様の掃除とお参りが
2人の日課だった。
義母は中々子宝に恵まれない私の心中を察して
「大丈夫。こうしてお参りするとあなたにも
知らせが来るからね」と言った。

何となく聞けずにいたが、知らせって
何だったのだろう‥。
そんな事を思いながら今日も最後にお参りをする。
目を開けると何故か付けてもいないろうそくに
火が付いていた。

これは‥?もしかして‥?
もしかすると‥!

後日検査すると、私に小さな命が宿っていた。




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