水晶

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2/17/2024, 10:14:45 AM

『誰よりも』

昔から自分の声の小ささは自覚していた。
普段の生活に支障は無いが、大きな声を
出す場面では出来ない自分が辛かった。

「お願いします!」
部活始めは体育館の入り口で1人づつ
先輩のOKが出るまで挨拶を繰り返す。
同級生が一発でクリアする中
私は何度やっても駄目だった。
聞こえない、それが理由だったが
精一杯の声を出しても言われるので
辛くて涙が滲み、声は益々小さくなった。

まるで自分の全てを否定されたようで
その場からいつも消えてしまいたかった‥


今、私は老人ホームで働いている。
入所中のマツさんが
「あんたの声は誰よりも優しいなぁ」
と言ってくれる。
私はその言葉が嬉しくて涙する。

2/16/2024, 5:05:04 AM

『10年後の私から届いた手紙』

ある年の年末、
ぼくに不思議な手紙が届いた。

「よう、元気か。
俺は10年後のおまえだ。
トランプの貧民で大富豪になるだけで
大喜びするおまえに、今日はいい事を
教えてやる。

大きくなったら第36回有馬記念
ダイユウサクの単勝を買え。
100円で1万3790円
1万で137万円
100万買えば1億以上だ!
分かったな?
じゃあ、ヨロシク!」

何これ?
ありうまきねんって何?
ダイユウサクって誰?
どうして100円が1万円になるの?

こんなわけのわからない変な手紙
ぼくいらない。

2/15/2024, 12:08:49 AM

『バレンタイン』

今日の為に十分準備はしてきた。
先輩の好きな物や好きな事、
隣の席の太一にそれとなく聞いて。

同じサッカー部の2人は部活後
いつも一緒に遊ぶらしい。
それを翌日私に話して聞かせる。
そうなんだ~、って相槌を打ちながら
先輩のことを聞けるのが嬉しい。

先輩の好きな緑色でラッピングした
チョコを持って玄関の柱の陰で
ドキドキしながら待つ。

今日も遅くに太一と出て来た先輩。
2人仲良く手を繋ぎ肩寄せあっていた。

「え‥、それは聞いてないよ‥」
私は後ろ手にチョコをそっと隠した。

2/14/2024, 12:36:37 AM

『待ってて』

不登校になった。
暫く保健室登校していたがそれも辞め
最近は日中、市立図書館へ行っている。

最初こそ周りの目が気になったが
今はもうあまり気にしていない。
そこに行けばあの子に会えるから。
境遇が似ていて歳も一緒だ。

2人で居ることが心地いい。
何をする訳でもないが
1日があっという間に過ぎる。

帰り際、いつもの挨拶をする。
「明日も待ってるね」
「明日も待っててね」

そう言える幸せ。
言ってもらえる幸せ。