Nobody

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11/30/2025, 11:35:29 AM

僕たちの出会いは
打ち上げられた波が砂浜を撫でるような
あまりにもささやかなものだった。

引力のように引き合ったはずなのに
些細なことで言い争った。

背中を向け
涙を流し
寂しさを埋めるように
また抱きしめあった。

もつれた糸は何度も絡み合い
でも切れることはなく
いくつもの束になって
より強固になっていった。

あれから10年。

海を眺めて微笑む君。
ひまわり畑ではしゃぐ子どものような君。
花火の音が大きいと耳を塞ぐ君。
愛おしそうに僕を見下ろす君。

これまで君と紡いできた日々の
なんと煌びやかで美しいことか。

これからは毎年この日に
ひまわりの花束を贈ろう。
僕を照らし出す太陽のような君に。
さざなみが君を連れて行ってしまわぬように。


【君と紡ぐ物語】#207

11/3/2025, 3:02:54 PM

今更という他なかった。
東京行きの新幹線の発車時刻は
刻一刻と迫っている。

見送りはいらないと言ったのに
この男は何故か私の座っているベンチに
同じように腰掛けている。

何を話すわけでもない。
チラリと隣を見ても
彼はこちらを見ることなく
私があげたネックレスを
感触を確かめるように触っている。

アナウンスが鳴り響き
新幹線がホームに入ってきた。
荷物を持って立ちあがろうとすると
何かに引っ張られて再び座らされる。

違和感のもとを辿ると
私のシャツの裾を握る
彼の手がそこにあった。

怒りで眩暈を覚えたのは初めてだ。

彼の手を振り払い新幹線に乗り込む。

振り返ると
閉まるドアの向こうで
私と同じ顔をした彼が
何かを伝えようと必死に口を動かしていた。

ねえ 気づいてる?
私たち
想ってるだけじゃだめだったんだよ。

歪む視界のなか
胸は締め付けられ
呼吸もままならない。


【行かないでと、願ったのに】#199

11/2/2025, 12:30:40 PM

翠緑色の革表紙を
割れ物を扱うように優しく開いた

書き記した全てを
一言一句漏らさぬようになぞり
慈しむように写真を撫でた

好きな食べ物
よく飲んでいる物
最近の悩み
仲のいい友達

明日は苦手な古典の授業
気怠げにロッカーに向かい
乱雑に教科書を取り出し
机の上に放り投げる

後ろの席の子に
「ねぇ、今日どこあたる?」と
困ったように問いかける

嗚呼 全てわかる
キミのことはいつだって

なんでも記した
ひとつも見落とさないように

切り落とした髪
剥がれたネイル

全てのページを掻き集めて
偽物のキミを
作ることだって容易さ


【秘密の標本】#183

7/13/2025, 9:26:38 AM


風と共に吹き抜ける

風鈴の音

チリン と甲高い音に紛れて

風と共に舞い込んでくる

疲弊した魂


[風鈴の音]#171

3/2/2025, 5:40:39 PM

はじめまして

ああ

私を見ているのね

違うわ

貴方が見られているのよ

今もさっきもこれからも

みんな気づかないの

さあ

次に来る"貴方"は

一体


[誰かしら?]#166

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