涙ぐむ彼女にフラッシュが1度だけ光る
大切な人を亡くしたと
その原因は自分にあると
そう自責の念に駆られてた彼女を撮影したのだ
『私が殺したのよ』
そう叫ぶ彼女を撮影した
周りは勿論驚いた
不謹慎にも程があるとカメラを持つ青年を小突いた
『これは撮らなきゃいけないものっすよ』
いつもなら満面の笑顔で言い訳をする彼の声が
あまりにもか細く震えてて
彼も彼なりに傷を負ったのを伝えている
それなりに故人の存在が大きかった
『あの人が生きていた事を』
『あの人が此処に居た事を』
『触れられるものとして遺すには』
『こうするしかないんすよ』
ぽつりぽつりと彼なりの理論を展開する
彼女の為に寄り添い、誰が悪いという訳では無いと
ただ慰めていた少女は言葉を詰まらせた
『今生きてる俺らは』
『泣いて後悔するよりやらなきゃいけない事がある』
『だから俺っちはこうした』
『俺っちにはこうするしかなかったっす』
前を向かなきゃいけない人が居る
自分と向き合わなきゃいけない人が居る
これから先の為に動かないといけない人が居る
その人達の努力や功績を出来る限り多く遺す必要がある
『アンタはホント…』
涙ぐみながら普段と変わらない行動をしようとする彼に悪態をつこうとした
でも言葉が浮かばない
不謹慎で最低で空気も読めない彼に
自分は…
『ありがとう』
一言零した
『ずっと言いたかったの』
『ありがとうって』
『簡単な一言を』
途切れ途切れに後悔を語る
どうしようも無い後悔
感謝の気持ちをいくら伝えても死人からは何も返ってこない
『ベルちゃんは不器用だからちょっと遅れちゃったんだよね』
『でもね、今からでも遅くないよ』
『久保さんはね、優しいからね、きっと見ていてくれるよ』
彼女よりも幼い少女が懸命に慰める
秋晴れの空のような水色の髪を梳く
大切な人達に沢山褒められた髪を
ただ優しく撫でてくれる人達が居る
『受け入れてくれてありがとう』
『助けてくれてありがとう』
『友達みたいに』
『家族みたいに』
『接してくれてありがとう』
今まで言えなかった感謝の言葉が流れ出す
堰き止めてた全てが決壊したように
涙と同じくらいに
『傍に居てくれてありがとう』
1つでも届いて欲しいと願いながら
〜あとがき〜
生きてる人が覚えていれば死は永遠であり彼はいつまでも家族であり友人であり仲間である
目の前に居るのは敵だと誤魔化せればどれほど良かっただろうか
血の繋がりとか愛の繋がりとか長い間柄とか何もかも関係無くて
ただ面と向き合ってる自分達が“相容れないものだった”で済ませられればどれほど楽だろうか
大きな掌を振り上げる貴方が
我が子を後目に涙を流し続ける貴方が
幸せと不幸を見比べて自分の方がと喚く貴方が
当たり前のように笑っていてくれると信じてくれた貴方が
聞こえない所で小さく影を産む貴方が
紅葉のように染まっていく貴方が
居場所が無いからと寄り添おうとする貴方が
不運を共に背負えないと零した貴方が
現実と非現実を混ぜて嘲笑う貴方が
1人では何も出来ない貴方が
ただただ憎らしく思える貴方が
こんなにも愛おしいと気付くのは
あまりにも残酷じゃないか
あまりにも残酷じゃないか
〜あとがき〜
人の目って、凄く嫌いな人を見る時に鋭くなるよね
でも嫌いだなって思う反面好きだなって所もあったり
どっちも通り過ぎると“どうでもいいなぁ”ってなったり
嫌いな人に対する眼差しってどうしてあんなに怖くて悲しいんだろうね
“ここまでだ”なんて一言でキミを見送るにはあまりにも寂しいではないか
共に生きて笑い困難に立ち向かい酸いも甘いも語り合った仲ではないか
充分生きたではないか
いや、まだ死ぬ訳ではないが
もしも此処で死ぬのであれば
キミに何かしらの言葉を送りたい
己のやるべき事を即座に行動に移せる判断力
目標も目的も見失わない強い信念
その為に手を差し伸べ朽ちていく仲間に向ける優しさも
何もかもを兼ね備えたキミに何かを送りたい
どうか何処までも
何処までも昇ってくれ
高く高く
神にも届く程に
天高く
そこにあるキミの幸せを願って
〜あとがき〜
見送る側の視点って書くの難しいですよね
あまり長くしたくない
見上げてると首が痛くなりそうだから
信頼出来なくなったのは
素直になれなくなったのは
嘘をついてしまったのは
正直に話してしまったのは
上手く立ち回れなかったのは
上手く言葉を出せなかったのは
羨んでしまったのは
妬んでしまったのは
愛してしまったのは
愛せなかったのは
きっとまだ子供だから
アウターを着ないと寒ささえ感じる秋風が風が制服を扇ぐ度にバタバタと音が鳴る
思い悩む思春期を写しているかのような曇天の空は暖かな陽の光をこれでもかと隠してきた
『何処か遠くに行きたい』
届く訳でも無いのに校庭を走り回るサッカー部員に呟いた
思った以上に高い学校の屋上で独り零した
家に帰りたくないという理由で校内に居残る生徒は不良に含まれるのだろうか
転落防止柵を掴む手に力を込めた
窮屈になった上履きを脱いで
風に煽られるリボンを整える間もなく
長いポニーテールは重力に逆らおうとした
重力に従う身体とは違って
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〜あとがき〜
いざとなったら全部捨てて遠くに逃げるのも有りなんだぜ
死にたい訳じゃ無いのなら