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6/28/2023, 11:00:10 AM

今年の夏は猛暑らしい。テレビかなんかでそう言ってたのを聞いた時、毎年猛暑じゃねぇかと思ったのは俺だけじゃあ無いはずだ。

夏は暑い。暑いのは嫌いだ。汗でベタつくし食欲も失せて夜は寝苦しい。それでも夏が嫌いじゃないのは、ガキの頃の楽しいが散りばめられた夏の記憶のお陰だろうな。なんて星の見えない空を見上げてみると思い出の夏がそこに見えた。

夏といえば流しそうめん。盆に親戚連中が集まる日、朝から爺ちゃんが竹を切って来る。半分に割って節の所をトンカチで豪快に叩き割ったあと、細かく削って滑らかにする。コンテナで高さを調節したところに竹を置いて固定したら、ホースを括り付けて出来上がり。節の処理が面白くて遊び半分に手伝った記憶。

夏といえばカブトムシ。それからクワガタ。そしてセミ。夜網戸にくっついてたり、家業で作ってる果物の袋の中から出てきたり。野生のだから売ってるヤツ程大きくもなければ外来種みたいにかっこよくもないけど、それがなんだか好きだった。朝の涼しい時間に山に連れてってもらった事もある。父さんだったり爺ちゃんだったりが思い切り木を蹴り揺らすと沢山落ちてくるカナブンの中にクワガタが混じってた。あとはなんと言ってもセミの孵化。孵化が始まるセミがいると声を掛けられ見に行った。ゆっくり少しづつ、白と薄緑の中身が出てきてしわくちゃな羽が伸びていく。時間を忘れて見入った記憶。

スイカに夏祭り、風鈴の音とかプールとか。他にも色々あるけれど、でも1番はいつの日か見上げた木漏れ日の景色だと思った。陽の光が木々に遮られ、その隙間から光が落ちるあの景色は記憶の中で一等きらきらと輝いている。

目を開けるとそこにはやっぱり星の見えない空と濁った空気。そして爛々と街を照らす街灯や看板。道路にも車が沢山走っててとにかく明るい。生ぬるい風の不快感に眉を顰める。

…………あぁ、都会の夏は暑いなぁ。

2023,6,28 夜 「夏」#02

6/28/2023, 12:11:24 AM

「ここではないどこかへ行きたい」

喧騒の中で誰かの声が聞こえた。そうしてふと考える。
此処とは何処で此処ではない何処かとは何だろう、と。

例えば、此処を今居るこの店だとする。そうすると店の外全てが何処かになるのだろうか。
となると今いる街が此処ならば街の外が何処か、今いる国が此処ならば国の外が何処かである。

例えば、此処を今生きるこの世界だとする。そうすると店の外も街の外も、国の外すら此処である。存在しない何処かへ行く方法なんて無い。次元を超えるだなんて馬鹿らしい空想を語るしかない。

例えば、此処をこの世だとする。そうするとあの世が何処かになるのだろうか。あの世というあるかどうかも分からないところへ行きたいのだろうか。その為に捨てる事を厭わぬ程に此処は酷い場所なのだろうか。


カランとグラスの氷が遊ぶ音に沈みかけていた思考が戻ってきた。相も変わらぬ喧騒と傾き始めた陽の光に目を細める。一服するだけのつもりが思いの外長居してしまった様だ。

帰路につき雑踏の中で思う。例え何処かへ行けたとて、私が私である限り何も変わることは無いのだろうな、と。

2023.06.28 朝「ここではないどこか」#01