「ここではないどこかへ行きたい」
喧騒の中で誰かの声が聞こえた。そうしてふと考える。
此処とは何処で此処ではない何処かとは何だろう、と。
例えば、此処を今居るこの店だとする。そうすると店の外全てが何処かになるのだろうか。
となると今いる街が此処ならば街の外が何処か、今いる国が此処ならば国の外が何処かである。
例えば、此処を今生きるこの世界だとする。そうすると店の外も街の外も、国の外すら此処である。存在しない何処かへ行く方法なんて無い。次元を超えるだなんて馬鹿らしい空想を語るしかない。
例えば、此処をこの世だとする。そうするとあの世が何処かになるのだろうか。あの世というあるかどうかも分からないところへ行きたいのだろうか。その為に捨てる事を厭わぬ程に此処は酷い場所なのだろうか。
カランとグラスの氷が遊ぶ音に沈みかけていた思考が戻ってきた。相も変わらぬ喧騒と傾き始めた陽の光に目を細める。一服するだけのつもりが思いの外長居してしまった様だ。
帰路につき雑踏の中で思う。例え何処かへ行けたとて、私が私である限り何も変わることは無いのだろうな、と。
2023.06.28 朝「ここではないどこか」#01
6/28/2023, 12:11:24 AM