”愛して”
“愛して”
“愛してる”
“海より深く”
“地獄の業火よりも熱く”
“貴方を”
“貴方だけを”
“愛しているわ”
そう耳元で囁いてやったの
そしたら
彼可笑しいの
あんなにも“好き”って言って欲しいって
しつこかったのに
その日以来何も言ってこなくなったわ
お生憎様
私は軽い恋なんてしないわ
軽い“愛の言葉”なんて
いくら囁かれても
そんなの
軽いまま
さぁ お手本は見せたわ
次は貴方の番よ
『誰よりも、ずっと』より
満天の星のなか
私は踊り続ける
滑稽で儚く
一夜の物語
どうか、私とワルツを
『星空の下で』より
“コトッ”
私の横に湯呑みが置かれた
ちょうど喉が渇いてお茶を取りに行こうとしたところ
『あら、ありがとう』
背中を向けて何か作業をしている夫に声をかけた
“ん”
声なのかうめき声なのか分からない返事が
返ってきた
次の日も
眼鏡やくだもの、えんぴつや新聞など
そっと側に置かれた
相変わらず背を向けていそいそと作業をしている夫に
“ありがとう”と声をかける
夫もこちらを見ることなく
なんともいえない声で返事をする
ある日私が新聞を読んでいると
“コトッ”
と何か置かれた音がした
何だろうと思いそちらに目をやると
そこには可愛らしい木彫りのうさぎが置かれていた
『あら。可愛い』
『お父さん、このうさぎどうしたの?』
『懐かしいわねぇ』
そう声をかける
昔戦後で何もない時代
夫が私のために作ってくれたうさぎ
懐かしくてついつい眺めていると
“結婚してもう70年になる。わしももう年だ”
“わしが初めてお前にプレゼントした木彫りのうさぎ”
“あれをお前は大層気に入ってくれたなぁ”
“日に日にわしの手の力も衰えてきよる”
“お前にもう一度だけ”
“このうさぎを作りたかった”
“お前には苦労ばかりかけてしもうた”
“お前が居なくなってもう5年は経つ”
“わしももうすぐじゃ”
“それまで、寂しくないよう”
“それを持って待っといて欲しい”
そう言いながら夫は泣いた
『あらあら、私の前では泣いたことはなかったのに』
『ふふふ、大丈夫ですよ』
昔っからぶっきらぼうで天邪鬼なあなた
私はいつもあなたの隣で見守っていますよ
柔らかい風が夫の背中を励ますように撫でる
仏壇に背を向け涙する夫とそんな夫が心配で
ついつい留まってしまっている妻の不思議な物語
『何気ないふり』より
スポットライトに大歓声
私は今、舞台に立っている
そう
私の舞台だ
客席からは拍手喝采
あぁ
もっと もっと
まだまだ終わらない
私の終劇(フィナーレ)は
こんなものではない
さぁ 演(み)せてあげよう
私だけの完璧な終劇(ハッピーエンド)を!
『ハッピーエンド』より
“あの子のあの服可愛い”
“あの子のあの靴どこで買ったんだろう?”
“あの子の仕草は本当に可愛い”
“あの人のスタイルすてき”
“あの女優さん本当に肌きれい”
“あの子の”
“あの子の”
“あの子の”
“あの子の”
““““いいなぁ、、、””””
私もあんな風になりたい
なんて
あまりにも寂しいね
みんなそれぞれ努力している
みんなそれぞれ他の人にはないものを
持っている
よその芝生を見るよりも
我が家の芝生を見てみようよ
自分でも知らない
でも
他の家にはない
自分だけの花が咲いているはずだから
『ないものねだり』より