さよならを言う前に
君を強く抱き締める
名残惜しくて
このまま連れ去ってしまいたくて
顔を見なくたって
君が泣いているのがわかる
別れたら
もう会えないかもしれないから
たくさんたくさん
話をした
肌を重ねて愛し合った
こんなに思い出を作っても
まだまだ名残惜しい
鏡
一日の始まりに
鏡の中の自分に「おはよう」ってする
寝起きのぼんやりした顔を洗ってお化粧して
自分のなりたい自分に変身して
自分の一番いいと思う笑顔を見るんだ
そうしたらきっと
今日もいい一日になる
一日の終りに
鏡の中の自分に「おやすみ」ってする
メークオフした素の自分は
正直あんまり可愛いとは思えないのだけど
一日頑張った自分にやさしくしたい
そう思うんだ
ゆっくり休んできっと
明日もいい一日になる
いつまでも捨てられないもの
お小遣いを貯めて少しづつ買いそろえていった
色とりどりのボールペン
ラメ入りの綺麗なもの、限定色、そして廃盤色
古すぎてもうインクが出ないものもあるけれど
断捨離をしようと思って何度も出したけど
どうしても捨てられなかった
もう手に入らないものもあるからってのもあるけど
あなたとの交換日記に使っていたから
そのノート自体は
もうどこに行ったのかわからなくて
私が持っていたのかもしれないし
あなたが持っているのかもしれない
だけど中身は鮮明に覚えていて
毎日飽きもせずに色んな色で色んなことを書いた
あなたと連絡が取れなくなって
もうどのくらいだろう
もう今となってはこのボールペンたちだけが
私にとってのあなたと繋がる記憶なんだ
誇らしさ
高らかに奏でられるファンファーレ
駆けつけた人々からの惜しみない歓声
魔王を倒した勇者の凱旋だ
勇者は数人の仲間と共に手を振りながら
胸を張って歩く
本当に、本当に素晴らしい光景
裏方で支えた自分は
最後まで行動を共にしなかった自分は
この歴史に名を残すことはないけれど
誇らしい気持ちで幼なじみの表情を
遠くからずっと見つめていた
夜の海
深い暗闇を見ていた
どこまでも、どこまでも闇で
空には月明かりすらなくて
ただただ寄せては返す波の音だけが響いていた
何も見えていないのに
何かが見えるような気がした
波の音の間で
誰かが呼んでいるような気がした
何かを感じたのかもしれないし
何も感じなかったのかもしれない
自分の意思なんかなく
何かに取り憑かれたのかもしれない
暗闇の中、歩き出す
夜の海に沈んでいって
後には何も残らなかった