私の名前
最初に認識したのは白い壁
上から降り注ぐ光
のぞき込んでくるアナタの顔
気分はどうだい?
そんなことを聞かれた気がする
けれどワタシにはわからなかった
気分というものが何なのか
何を聞かれているのか
何故そんなことを聞くのか
そうだよね。そんなこと聞かれても
わからないよね
アナタはうんうんと頷いて
まず、君の名前を決めようか
そう言ってアナタはワタシに名をくれた
その瞬間から、私の全てが始まった
視線の先には
怯えるように虚空を見つめる君
その視線の先には僕には何も見えなかった
あの時君は何を見ていたの?
何を感じていたの?
今となっては何もわからない
だけど今、もういないはずの君に導かれて
僕はここへ来たんだ
姿は見えないのに、確かに感じる君のこと
僕はあの時の答えを求めて
気配だけで呼ぶ君に着いてきた
かくして
僕の視線の先には
あの時の答えがはっきりと見えていた
私だけ
この物語は、私だけの秘密の物語
毎日少しづつ書いては色をつけていく
まだまだ人に見せられるものではない
だから今はまだ、私だけのもの
いつか他人に見せられる日が来たら
この物語はみんなのものになるのかな?
それとも結局誰にも見向いてもらえず
知ってもらうこともできないのかな?
今はまだ、私だけが楽しければいい
だけどいつかは
私だけじゃない
みんなが楽しめる物語を書きたい
遠い日の記憶
少しづつ片付け始めてもうどのくらいだろう
身の回りのものを減らして暮らしやすくして
今後何かあっても近しい人が困らないよう
最近は押入れの奥深くのものを捨て始めた
古いアルバム、もらった寄せ書き
溜め込んでいた趣味のもの
仕舞い込んでいた古いものたちは
昔のことを否応なしに思い出させてくれる
友人たちとの思い出
今は亡き夫と初めて出会った日のこと
忘れていた遠い日の記憶は
確かにここにあった
でももう大丈夫
私の記憶もきっと誰かのどこかに
存在しているのだから
空を見上げて心に浮かんだこと
澄んだ青空だ
うっすらと白い雲が透き通って見える
けれど基本的には快晴
それだけ
どんだけ空を見上げたって
何も思い浮かんではこない
いつからこんな風になってしまったのだろう
昔はもっとたくさん
色んなこと考えて
色んな物語を紡いできたのに
今の私の心はどうやっても空っぽで
ただぼんやりと空を見ることしかできない
けれど
もしかしたら空っぽなら空っぽなりに
実は何か浮かんでいるのかもしれないね