誰よりも
君は誰よりも頑張り屋さんだ
いつだって誰よりも丁寧に仕事をしているし
夜遅くまで勉強しているのを知っている
君は誰よりも素敵で魅力的だし
誰よりも報われて成功して欲しい
僕は君のこと、誰よりも見ているんだ
だから誰よりも僕のことを見てほしいけど
まずは僕が君にとって
誰よりも魅力的にならないとね
10年後の私から届いた手紙
帰宅して部屋に入った私の目に飛び込んできた
机の上に置かれた封筒
私がこの間新調したレターセットの封筒
なのに、ずいぶんと色褪せて古ぼけている
手に取るとそれはしっかりと封がされていて
表には何故か私の名前
裏は……何も書いていない
悩んでいたって仕方ない
机からカッターを出して封を切る
中に入っていたのは封筒とセットの便箋
見覚えのある字で走り書きがされていた
にげて
知っている
これは、私の字だ
だけどこんな手紙を書いた覚えはない
手紙の下に数字が並べられている
20340215
このクセもわかる
私がやるやつ
これは日付だ
つまり、ちょうど十年後……?
未来の私は何を知らせようとしているのだろう
今の私には、何もわからない
ただ、胸の中で何かが警鐘を鳴らしていた
バレンタイン
何日も前からみんなそわそわ
本番に向けて試作を繰り返したり
可愛いラッピングを選んだり
前日はみんな一生懸命
真剣な面持ちで台所を占拠する
愛情こもったチョコレート
最高に美味しいに決まっている
当日はみんなドキドキしてる
後ろ手に包を抱えて
それぞれが大事な人を待つ
上手くいくといいね
素敵な一日になりますように
ハッピーバレンタイン!
待ってて
別の道を歩き始めた君と僕
毎日が忙しくて
君に会いに行く暇なんてない
だけど君のこと
忘れた日なんて一度もないんだ
頑張って立派な人間になって
いつか君を迎えに行く
君は待ちきれなくなって
他の人に気がついてしまうかもしれない
だけど大丈夫
僕は何度だって君を振り向かせる
絶対に頑張るから
素敵で魅力的な人間になるから
絶対に君を幸せにするから
心配しないで待ってて
伝えたい
馬鹿みたいに、走っていた
息が上がって
足がもつれて
苦しくなっても
足を止めようとは思わなかった
どうして今更気付いてしまったのか
どうして今、このタイミングで
そんなことわかっている
君が去ろうとする今だからこそ
気付いてしまったんだ
本当に、馬鹿みたいだ
自分の気持ちに嘘ばかりついて
君をからかうことばかり言って
本心に蓋をしていた
君の名を叫ぶ
電車に乗ろうとした君は
びっくりして振り返る
もう、躊躇いはない
この想い、君に伝えたい