もう一つの物語
静かな月の夜だ
私は墓前にひとり立っていた
そこで眠る彼女に
彼の物語を報告するために
今頃彼は人々に囲まれ
賑やかに祝われているだろう
彼の活躍をもってして
一つの物語が幕を閉じようとしている
だけどその裏で
もう一人活躍した人物がおり
その主人公たる彼女の物語は
誰にも知られぬことのないままだろう
全て終わったよ
安心して眠るがいい
私はそれだけ告げてその場を立ち去る
私の物語もそれで終わった
暗がりの中で
悪夢に、目が覚める
内容は思い出せない
ただ、全身汗びっしょりで
心臓がバクバクいっている
今何時だろう
思ったが時計は見ない
部屋は暗く
朝には程遠いことはわかるし
時間を見てしまうと
翌日も同じ時間に起きてしまうって
何かで見た
暗がりの中
電気もつけずに用を足し
軽く汗を拭く
水を飲むために開けた冷蔵庫の明かりが
やたらと眩しく感じられる
ベッドに戻るが
なかなか寝付けそうにない
こんな日は君のこと
考えながら過ごしてもいいかな
紅茶の香り
惜しみなくフリルがあしらわれたドレスを着て
髪は綺麗に巻いてヘッドドレスをそえる
サーモンピンクのチークとリップで魔法をかけて
目の前に運ばれる三段のケーキスタンド
並べられたケーキはどれもつやつやで
まるで宝石みたい
花の意匠があしらわれたティーカップに
高い位置から紅茶が注がれる
花のような、果実のような
やわらかな香りが沸き立って
そこで名前を呼ばれて目が覚めた
まぁ、夢ですよねあんな素敵な体験
だけど
ふわりとした紅茶の香りが確かにする
お茶が入ったので起こしに来たんですよ
ああ、確かにそうだった
お湯を沸かしている間にうたた寝してしまったんだ
夢の中ほど豪華じゃないけど
とっておきの紅茶、いただきましょうか
愛言葉
いつも探している
君に伝える言葉を
少し青くさいかな
カッコつけすぎかな
恥ずかしくて
いざとなると言葉にできないかな
色んな想いでぐるぐるして
悩んで
決意して
でも躊躇って
正解がわからない
君に伝えたい言葉は
結局いたってシンプルで
それなのに
なかなか口にできない
君に伝わって欲しい
愛言葉
友達
「私たち、友達だよっ」
そう言って
あなたはわたしに呪いをかけた
友達だから
友達でしょ
友達なら
その言葉で
わたしはいつだって自分を呑み込んだ
あなたはみんなの人気者
いつもわたしと一緒にいながら
わたしの欲しいものをいつも手に入れていた
流行りのワンピース
両親の愛情
担任からの信頼
優秀な成績
うらやましい
ねたましい
くやしい
でも
友達だから
わたしは今日も笑顔であなたの隣にいるよ
あなたも
わたしの友達だから
わたしのこと裏切ったりなんかしないよね