夜の海
闇の中、聞こえるのは波の音だけ
ザザ……ザザ……ザザ……
何かに呼ばれたような気がして
前へ、足を動かす
目の前はただの闇
波の音だけが、静かに誘う
ザザ……ザザ……ザザ……
足元が柔らかくておぼつかない
だけど前へ…前へ行かなければ
何かに取り憑かれたように足を動かす
ザザ……ザザ……ザザ……
波の音が、暖かく包みこんでくれる
そんな気がして
海よ、こんな自分でも受け入れてくれますか?
自転車に乗って
空が青く、風が気持ちいい
こんな日は
自転車に乗ってどこかに行こう
近くのショッピングセンターでもいいし
ちょっと足を伸ばして
海が見える公園に行くのもいい
坂道を登るのは大変だけど
一度上まで行ってしまえば
後は両足を広げて
ただ風を感じるだけ
自転車に乗ってどこまでも行こう
もしかしたら
新しい出会いがあるかもしれない
心の健康
君はいつだって元気だ
君は笑いながら言う
好きなものを持ったほうがいい
複数。多いほうがよい
趣味、推し、打ち込めるもの
実際君は
いつも楽しそうに好きなものを語り
たくさんの物事に打ち込んでいる
それが君の、心の健康の元らしい
僕の存在も
君の心の健康になっているかい?
僕にとっては
間違いなく君の存在は
心の健康になっている
君の奏でる音楽
遠くから微かに聴こえるメロディ
良く知っている
幼なじみの君が
よく奏でていた曲
あの頃はたくさん一緒に遊んだ
この曲を奏でる君を見てきた
今はもう
君と一緒になることはない
君を見ることはない
ただ
たまに君の奏でる音楽を
遠くから聴くことしかできない
麦わら帽子
店先で、ふと目に留まった帽子
夏らしく編まれた本体に
赤いチェックのリボンが巻かれている
きっと似合うだろう
君の姿が思い浮かぶ
気が付いたら、袋を手に店を出ていた
ベンチで待つ君の後ろ姿
そっと袋から帽子を取り出して
君の頭に乗せる
君はびっくりして振り向いて
僕の顔を見て頬を膨らませる
やっぱり、良く似合う
伝えると君は顔を真っ赤にして
近くのガラスで自分の姿を見て
嬉しそうな笑顔に変わる
麦わら帽子のつばを両手でつまんで
くるりと回って
僕の腕を取る
じゃあ、デートに行こうか