あんなに白かった体は、
こんなにも汚れてしまったね。
日に増して小さく、そして消えてゆく。
居なくなった場所には涙の跡だけが残っている。
もうバイバイの時間なのかな。
そっと、太陽を睨んだ。
それはもう、憎しみの念を込めて。
奪わないで。
まだ一緒に居たいの。
人は今以上のものを欲しがる生き物だ。
幸せとは堕落と欲の塊である。
地平線を走る光がひとつ
夜と朝のグラデーション
星たちの隠れんぼ
昨日のことである。
何年もの間扉の向こうに居る死刑囚に訊いてみた。
「今年の抱負は?」
すると、彼はこう答えた。
「今年も生き抜く」
今度は彼が訊ねた。
「アンタはどうなんだ?」
考えるフリをしてから、
「人殺しにならないこと」
とだけ返した。
そして今日、私は彼が居た扉の中を秩序の側から見下ろしている。
タイトル【新年】
文字数 700文字くらい
「0時00分、境目を遂に超えた」
スマホの画面を見ながら、彼はそう言った。
「年が明けたみたいだが、どうもそんな気はしないな。まあ、23時59分が0時00分なって、日付或いは年が変わったところで、昨日の続きという感覚がなくなる訳じゃないから、当然っちゃ当然なのかな?」
何やら釈然としない様子の彼に向けて、「デジタルかアナログか、ってこと?」と訊ねてみた。
中途半端な物怪顔になった彼が答える。
「ちょっと違う──いや、そういうことなのかも。うん、面白いね。デジタルかアナログか、か………。考えもしなかったな」
広角を歪ませて微笑むと、更に続ける。
「いつも不思議に思うんだ。昨日と然程変わらないのに、年が明けると、途端に昨日までの1年間が過去になった気分になる。始まったという感覚はないのに、終わってしまったという感覚だけがあるのだから、どうも心地が悪くってね。でも、払暁にもなると年が明けたという感覚がようやく出てくる。これがどうも不気味なことこの上ない。更に心地が悪いったらありゃしない」
「あなたの感覚で話すなら、年や日付の変わり方はアナログだけれども、どこかデジタルみたいだと感じるってことかしら? 慥かに、人生は連続性。年の変わり目も本来はそうあるべきなのかも………。非連続的に感じると違和感よねえ」
町のあちこちから新年を祝う声がする。時計に目をやると、針は0時07分を指していた。
「happy new yearではないぞ、ちくしょうめ」
そう言って煙草に火をつけると、煙を吐き出してから「だから新年は嫌いなんだ」と彼は悪態をついた。それを横に見ながら、私はこっそりと笑った。