お題:『贈り物の中身』
「ママ、ただいまー。あれー? パパはー?」
「あー……うん。えっとね、アレなんだけど、」
「おフトンに、紙が貼ってある? ええと……『この中にミカちゃんへのプレゼントがあります』だって! わーい! ……えー? なんで、パパ……?」
「じゃーん! 今年もずーっといいコにしてたミカちゃんへのクリスマスプレゼントは、サンタパパでしたー! なーんちゃって……って、あれ?」
「あーあ、パパってば……ついに、ママにすてられちゃった? だからミカに、ひろってほしいの?」
「え? や、そーじゃなくって、えーと……ほら、まずサンタ姿のパパの可愛さにびっくりするとか、こんなプレゼントじゃやだー、とか……」
「うーん、しょうがないなぁ。じゃあパパは、これから、ミカのおサイフにしてあげる! たーくさんカキンさせてあげるねっ」
「ちょっ、まっ……ミカちゃんってば、そんなコトバ、どこで覚えてきたのっ?!」
◇◇◇
「ミカったら、夢中になっちゃって。これじゃあクリスマスパーティーって言うより、ゲームパーティーねー。
ほーら、パパ……シンくんも。そんなすみっこで体育座りなんかしてないで、ね? プレゼントのゲーム、ちゃんと喜んでくれてるんだから、こっちに来て一緒に、」
「……俺は。あのとき、スッゲー嬉しかったんだ」
「んん? あのとき、って……あ、」
「付き合ってすぐの、クリスマス。ミキが、『プレゼントはアナタの大好きな、わ・た・し』って、布団の中で、スタンバイしてくれてて……」
「っ、あーれーは! サンタコスなんてやっぱやめよっかな、って考え中だったのに、シンくんが早く帰って来ちゃったから、とっさに隠れただけで! ……って言うか、さっきのミカへのサプライズって、そんな理由だったの?!」
「……どーせ、俺なんか。ミカちゃんとミキの、サイフでしかないんだ……」
「あー、もうっ! クリスマスにサンタが、ジメジメすんな!」
ここは『君と紡ぐ物語』の中、つまり僕と君が主人公の、二人は幸せに暮らしましたとさ、ってベタなエンドロールを出しっ放しの、世間的にはありふれた話だったはずで。
僕があの日、彼という新しい登場人物を君に紹介してしまったことで、紡ぎ糸がよれ、物語に綻びが出来てしまったのだ。
そして君は、それを上手に隠しているつもりで、けれど表向きは、僕とのハッピーエンドを続けていて──ふーん、そんな二重構造の話だったなんてね、さて。これから……どうしようか?
ここにある綻びを指さして、それから? いや、それとももう少し、綻びに気づかないフリをしてみようか?
『霜降る朝』にランドセル背負いつつ見つけたシモバシラ、あれを踏むときのあの音がまさに『失われた響き』だよな、って思った。シモバシラ、都会ではもう滅多に見つけられないし、見つけたとして、踏んでいい場所じゃないことのほうが多いのかな?
──『心の深呼吸』をしてみましょう。
「だって!」
「はあ? なんでオレが、」
──深呼吸のコツは、まず初めに息をゆっくりと吐き切ること。心も同じです。心の二酸化炭素をゆっくりと吐き切りましょう。
「心の二酸化炭素って、愚痴とかってこと?」
「吐き切るまでグチグチ言い続けるんか」
──心がカラッポになりましたか?
「ほとんどバイト先の店長の悪口だったかも」
「まぁ……お互いしゃーねーだろ」
──今度は、心の酸素を吸い込みましょう。あなたの好きな物を、あなたの五感で、思う存分吸収します。
「ボクはやっぱり、推し活だね!」
「ふーん。推し、か。オレにとっては……」
──パートナーとお互いの良いところを認め合ったり、ハグをしたりするのも効果的です。
「ボクに懲りずに、いろんなコトに付き合ってくれるの、すっごくうれしい! ありがとね!」
「お、おう。オマエのそういう素直なところが、オレは、」
「よし! じゃ次は、ハグしてみよっか!」
「っ、マジか……?」
「パートナーってヤツじゃないとあんまり効果ないかもだけど、」
「あーいや、まぁ試しにやってみてもいい……ゲフッ、急に飛びついてくんな!」
「わー、ボクと違って筋肉あるよねー」
「えーと……心の酸素が……濃いめ……」
「んん? なんか言ったー?」
家の中に出る蜘蛛を殺しちゃいけない、って言うあれはね、あの蜘蛛はアナタやアナタの家族専属の『時を繋ぐ糸』を吐く蜘蛛だから、なんだよ。
ほら。ふいに、自分が子どもだったころのことやなんかを、思い出すことがあるだろう? あれはアナタの蜘蛛が、吐いた糸を過去へ向かって投げて、パッと捕まえるから。まぁ投げ輪が上手くない蜘蛛もいれば、糸をしっかり網に仕立てている蜘蛛もいるし、それぞれなんだけど。それでボクらは、その蜘蛛の糸経由で、過去に繋がって……。
ああ、それでね。実はね、ボクはうっかり、ボクの小指くらいの大きさの蜘蛛を、潰してしまったことがあって。そしたら別の蜘蛛がやって来て、そいつは、糸で過去を絡め取るのが嫌なくらいに上手くて。余計なことすんなよ、って言いたくなるくらいに、ボクの嫌な過去ばっかりを、ボクに繋いでくるんだよねぇ。そう、まるでボクを、狂わせようとしてるみたいに……。
──オマエは。
時を繋ぐ糸吐く蜘蛛を、殺めた者。
……って、そんな声も糸経由で、うるさいくらいに聞こえてくるし……あーうん、そっかそっか。
もし、代わりに来てくれたこの蜘蛛を、ボクがまた潰してしまったら。そのときはまた、新しい蜘蛛がやって来て、その蜘蛛は、もっと大きな声でボクを責めて、もっと上手にボクの忘れたい過去だけを絡め取ってくる……だってさ!
わかった、わかった。ボクはもう蜘蛛を潰したりなんかしない──けど、ハサミでこの糸を切るくらいの抵抗は、させてもらおうかな?