孤都

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12/22/2024, 8:52:16 PM

   #ゆずの香り



  僕の実家はゆず農家で、学生時代、実家住みだった時は
 毎日、家の中がほんのりと、ゆずの香りがして、湯船には
 幾つかのゆずが、ぷかぷか温かそうに浮いていた。

  都内の大学に進学することになった僕は、春から、
 実家を離れて一人暮らしすることになる。 

  一人暮らしともなれば、家事や身の回りの事は
 自分でやらないといけないし、金銭面も慎重に考えねば
 ならない。

  上京してから、大変なことは山積みだけれど、
 一人暮らしで1番変わるのは、甘酸っぱく、
 優しく包み込んでくれるような、ゆずの香りが無くなって
 しまうということだ。

  幼い頃から、あの香りに包まれて育ってきたせいか、
 両親と離れるくらいに、心にぽっかりと空くものがある。

  そんな、ちょっとした、贅沢かもしれない悩みを
 抱え、高校を卒業した春、僕は上京した。


  時は流れて、6月。

  常に忙しい雰囲気に包まれつつある東京にも、
 田舎に似た優しさや、温かさがあることに気がつき
 始めた、この頃だ。

  日曜日、今日は大学もこれといった予定も入って
 おらず、1日のんびり過ごそうと、マグカップに
 コーヒーを注ぎ、少し大人な香りを楽しむ。

  ほっと、一息ついていると、インターフォンが鳴る。

  ドアの向こう側にいたのは、恐らく、配達物と思われる
 ダンボールを持つ、顔立ちの整った、爽やかな配達員の
 お兄さんだった。

  荷物を受け取り、部屋の中まで運ぶ。

  送り主は、両親からのもので、ダンボールが相当な
 重さだったので、一体、何が入っているのかと、
 恐る恐るダンボールを開けた。

  開けると、僕が密かに待ち望んでいた、懐かしい、
 甘酸っぱく優しい香りが瞬く間に、部屋に広がった。

  送られてきたダンボールの中には、たくさんのゆずや
 母親がつくったであろう、ゆずのジャム、父親作のゆずの
 バスボムなど、大量のゆず関連のものが入っていた。

  これが、世で多く感じられるという、実家からの
 仕送りのありがたみ、なのだろうか。

  早速、ゆずと母親お手製のゆずジャムを手に取り、
 コーヒーを飲み干して、ゆず茶とゆずクッキーを焼いた。

  ゆずをふんだんに使った、ティーセットを楽しみ、
 部屋に広がる、実家と同じ香りに満たされながら、
 僕の一人暮らしは続いていく。


  第二の故郷と言うように。

  ゆずの香りは、僕の第二の親といっても過言では無い。

12/21/2024, 2:06:27 PM

    #大空


  一点の曇りもなく、一目見て、その純粋さと
 清い心を知らしめてくる、そのきらきらと輝く瞳には、
 どんなに綺麗な世界が映っているのだろう。

  やはり、雲一つない、たくさんの夢や希望に満ち溢れた
 未来が広がる、清々しい、心地のよい、大空なのか。

12/9/2024, 11:29:06 AM

    #手を繋いで


  新しいママが来て、温かかったおうちは冷たくなった。

  新しいママは、パパが居る日は優しいけれど、
 単身赴任中のパパが居なくなっちゃうと、とても、
 怖くなる。

  僕や、弟のりくが、わがままを言うと、
 すぐに叩いたり、蹴ったりしてくるんだ。

  僕は、りくは叩かないでっていうけれど、
 ママは、聞いてくれないの。

  きっと、ママは僕とりくのことが嫌いなんだ。

  パパに相談しようと思うけど、パパが好きな人だから、
 嫌な思いをさせたくないんだ。

  パパに悲しい気持ちになって欲しくないから、
 りくを守りながら、ずっと、我慢するんだ。

  
  今日はね、学校から帰って長いお昼寝をしちゃって、
 ママが帰ってくる前に、洗濯物を畳めなかったの。

  悪いのは僕だけなのに、ママは僕とりくのことも
 お外のベランダに出したの。

  お外は、雪がたくさん積もってて、寒かった。

  息を吐くと白くなった。

  りくと雪だるまをつくって遊んでいたけれど、
 時間が経つとりくの体がどんどん冷たくなったんだ。

  上手におしゃべりもできなくなった。

  だから、僕の体の温かいのをりくに分けてあげようと
 思って手をぎゅーってしたの。

  でも、りくは声をかけても返事をしなくなったの。

  僕の体も冷たくなってきて、手が握れなくなったんだ。

  眠くなって、冷たくなったりくと手を繋いで、
 僕は寝ちゃったの。

  長いお昼寝をしたのになぁ・・・・・・。




  「昨日、○○市の住宅のベランダで、小学2年生の
  湊くん8才と弟の莉久くん4才が、凍死しているのが
  見つかりました」

  「湊くんと莉久くんは、母親から虐待を受けていた
  ものと考えられており、この日は雪が降る中、ベランダ
  に出されていたということです」
 
  「また、発見時、湊くんと莉久くんは手を繋いでいて、
  連日の寒さで2人の繋いでいた手が凍り、未だ離れて
  いないため、死亡解剖が進んでいないようです」

  「この現状から、兄弟の最後まで相手を思いやる思い
  と、事の残酷さが伝わってきました」

  「どうか、どうか、このように純真無垢な心を持つ、
  輝かしい子供たちの未来を、私たち大人の都合で
  奪うことがない、そんな未来を・・・・・・心から、望みたい
  と思います」







12/8/2024, 10:13:07 AM

     #ありがとう、ごめんね
 

   出会ってくれて、ありがとう。

   好いてくれて、ありがとう。

   愛してくれて、ありがとう。

   永遠の、愛を誓ってくれて、ありがとう。

   俺を、ドン底から引き上げてくれて、ありがとう。

   手を差し伸べてくれて、ありがとう。


   お前との生活は、申し分がないほど、幸せで、
  充実してた。

   
   でも、ごめん。

   だからこそ、不安でたまらない。

   この幸せも、必ずあいつに奪われてしまう。

   お前を巻き込んで、傷つけてしまう。

   そんな考えが頭を埋めつくして、不安で、怖くて
  どうにかなってしまいそうなんだ。



   だから――ごめん。


   俺は、先に逝く。


   また、来世、逢おうな――。

12/8/2024, 9:59:12 AM

    #部屋の片隅で


  初めてのキスは、酸っぱくて、ほんのり甘いらしい。

  実際、どうなのかを知りたくて、僕は片思い中の

  君に、キスをしてみようと思った。

  まぁ、若気の至りってやつだろう。

  いつも通り、放課後に君の家を訪ねて、勉強をして、
 ゲームをする。

  しばらくして、部屋の中が暑いと言い、君は着ていた
 服を脱いで、上半身に布を纏わない姿を僕に見せる。

  その姿を見た瞬間、僕の中の理性が、ブツっと切れる音
 がした。

  君の両手を重ねて、身動きが取れないように抑える。

  興奮状態にあった僕は、その場の雰囲気にのまれて、
 君と、初キスを交わした。

  外に出れば、じりじりと陽の光に肌を焼かれ、
 室内にいても、サウナのように蒸し暑い夏。

  外で蝉がうるさく鳴いていたあの日、
 君の部屋の片隅で、甘酸っぱい、キスをした――。

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