「例えばさ、ここに花を植えたとしてさ」
「うん」
「芽を出して咲けたとして、でもそれって1年もせずに枯れちゃうわけじゃん」
「そうだね」
「わたしはそれが寂しいなぁって思うのよ」
「まぁ、全く同じ花はもう咲かないもんね」
「それでね、1000年経ってもその花が枯れずに咲いていて、君とも一緒にいられたら良いのになんて思って」
「んー、ずっとあなたといられるならそれも良いかも」
「だけど1000年先の今日になったらきっとまた同じことを言っちゃうよ」
「むしろあなたがそんなに私と一緒にいたいと思ってくれて嬉しいけどね」
「…そっか」
「そうだよ。…でも、もう暗くなるし、そろそろ帰ろっか」
「……うん」
「大丈夫だよ。1000年先は隣にいられなくても、明日はいられるから」
「…うん。また、明日」
「ん、また明日ね」
(1000年先も)
1000年先も、なんて、現実的じゃないよ。
代わりに明日を約束し続けて、結局は同じ願いだって気付かないまま正当化していよう。
あなたに届けたいことばがある。
あなたに届けたいうたがある。
だからわたしは綴る。
どうか、この愛があなたの幸のひとつでありますように。
そんな願いを込めて。
(あなたに届けたい)
今日は友人とよく歩いた街へ行こうと思い立った。
最初の分かれ道をあっちに曲がれば初めて2人で行ったカフェがある。ついでに行った100均はまだあるのかな。
反対に曲がれば2人でよく行っていたカラオケがすぐそこだ。その友人以外とカラオケに行くことはほとんどなかったけど、他の人とは行ったことがないカラオケだ。そういえばそれより先の道に行ったことはないな。今度行ってみよう。
まっすぐ行って踏み切りの向こうまで行けば、友人に誘われて限定のアイスを買ったコンビニの前を通る。あの1度しか使ったことがないけど、よく覚えている。
なんとなく、今日はまっすぐ行くことにした。
次の角で左に曲がって道なりに5分くらい歩いたら一緒に帰る日によく寄り道して話していた公園だ。他に人がいるところを見たことがないから、少し時間はかかるけどいつもあそこに行っていた。
この街には友人と一緒にいた記憶がたくさんある。久しぶりに会いたくなってしまった。
いや、会いたかったから面影を求めに来たのかも。
今日は忘れてしまった時間をひとつでも思い出せたら良い。
(街へ)
わたしは優しさが嫌いだ。
優しさに甘えられることが嫌いだ。
わたしはあなたに優しくありたくて意識して言葉に優しさを込めているのに、あなたはわたしの優しさを当たり前だとでも思っているみたい。優しくありたいわたしを優しくあれない悪い人にするあなたが嫌いだ。
誰かから与えられる優しさは、その人を気遣う心を麻痺させる毒なのかもしれない。
わたしは優しい人じゃなくて優しくありたい人だって、それだけ分かってほしかった。
(優しさ)
音や言葉に色とか風景を感じることが好き。
これは、青くて暗くてでもきらきらしていて、静かで、優しい言葉。
さらさらと雨が降っていて、濡れたアスファルトが街灯を反射しているとか。
湖が月明かりをきらきら乱反射させているとか。
空を見上げたら星が瞬いているとか。
一緒に出かけた日の別れ際にあなたの銀色のネックレスが煌めいたとか。
冷える夜に誰も見ていないところで霜柱が立ったとか。
そんな風景が浮かぶ綺麗な言葉。
(ミッドナイト)