──これはRa2000型初期テストモデルの一部記録を抜粋したものです。
〜report No.35546〜
「初めまして」
初めて聞いた“音”。
それはのちに“声”と学んだ。
その声の主は“はかせ”と名乗った。
僕を生み出してくれたはかせ。
はかせは様々なことを教えてくれた。
教えてくれたことは、
“言葉”として、“知識”として、覚えた。
“空”は“青”。
“りんご”は“果物”。
“枕”は“やわらかい”。
はかせに学んだことは全て覚えた。
でもずっと分からない。
はかせといると“安心”する。
はかせといるとなんだかフシギ。
僕は“変”なのかな?
僕はまだ不完全で完璧なロボットではないけど、
はかせのためなら頑張れるよ。
このフシギはいつか何か分かるのかな?
はかせと一緒にずっといられますように。
今日もそう願う。
〜report No.824662〜
博士がもうすぐ死んでしまう。
僕は取り残されてしまう。
そんなの嫌だ。
僕はまだ不完全なのに。
あの“フシギ”も分かってないのに。
博士、僕はどうしたらいいの?
〜report No.827511〜
博士、僕はもっと早く知りたかった。
“感情”というものを。
あの“フシギ”は“感情”の1種だった。
あなたが生きていれば良かったのに。
あなたが生きていれば伝えられたのに。
博士……博士……。
あぁ……博士……。
────好きです。
〜report No.828002〜
─深刻なバグ発生─
kain:AI system/AI/secret file/aijou
《概要》
☆Ra2000型とは
2000年代から60年に渡り研究されたAIロボットです。
学びの姿勢は素晴らしく、人間の言葉から新たにインプットをし更新されていきます。
過去は感情などといった不具合が生じておりましたが、現在は日々のバグ修正をアップデートすることに成功。
人間に忠実なAIロボットとして優秀な力を発揮しております。
─これは不完全だったAIロボットのお話─
■テーマ:不完全な僕
君は香水が嫌いだと言っていた。
強い香りが辛いからと言っていた。
それなのに、なのに……。
君からはどうしてこんなに甘い匂いがするのか。
甘く優しい香り。
そんな香りに魅了される。
香水なんか纏う必要はない。
君のその香り、
まるで、金木犀のような、蜂蜜のような、
そんな優しい香りで包まれる。
安心する香り……。
君のそんな優しさに今日も包まれる。
■テーマ:香水
君の傍にいられれば何もいらない。
着飾った言葉はいらない。
仮初の化粧もいらない。
ただ、君が傍にいてくれればいい。
それだけでいい。
他は何も望まない。
それだけで幸福だ。
それ以上何も望まないから。
君をもう失いたくないから。
■テーマ:言葉はいらない、ただ・・・
インターホンが鳴って出てみたら、君が立っていた。
突然の君の訪問。
「……なんで来たんだよ?」
「あんたが風邪引いて仕事休んでるからでしょ!」
……あ、そうか。そういうことか。
「……ちょっと朝に頭痛があっただけだよ。たまにあるやつ。今はだいぶ良くなったから」
「また頭痛?相変わらず気圧に弱いねぇ、あんた」
余計なお世話だ。……ぐうの音も出ないけど。
「とにかくこれ!」
これ……?ビニール袋……?
「なんか買ったの?」
「あんた、どうせろくなもん買ってないんだろうから、色々買ってきた。ある程度野菜も入ってるからちゃんと食べなよね」
「……げっ」
「げっじゃない!だからたまに病欠するんでしょうが!」
それはそう。君が正しい。
「という訳で……」
「ちょっちょっ!?なんで上がろうとしてんの!?」
「え、ちょっとくらい上がらせなさいよ!どうせ料理もろくに作ってないんだろうしさ、作るわよ。ついでに数日分くらい作ってあげるから!」
「よ、余計なお世話だ!」
めっちゃ有難いけど!!!
「何言ってんのよ!病人が!!」
「へ、部屋汚ぇし!!」
「いつもじゃん!いいから!お邪魔しまーす!」
ドタドタと彼女が部屋に入り込む。
ちょっ!ちょっ!!もう!!!
「自分勝手だなぁ!!」
「あんたの割に意外と綺麗じゃん。付き合いたての方が最悪だったよ」
もう、そうやってニコニコするなよ。
めっちゃ可愛いじゃんか。
「……あんたさ、今日1回もLINE来れなかったでしょ?いつもなら病気の時でも来れるのに、今日来なかったからさ。結構辛かったんでしょ?」
うっ……図星。
彼女はいつも鋭い。
俺の生活見てるのかってレベルで鋭い。
確かに今日のは朝起きるのが辛いくらいの頭痛で、仕事への電話もとても億劫だった。
「……ふふっ、図星」
「わ、笑うなよ」
「でも意外と元気そうで良かった」
彼女はそう言って微笑んだ。
彼女は本当にいい子だ。
俺のことを本気で心配してくれる。
「……もう少し強くなるわ、俺」
「まぁ、確かに病欠はあんまり良くないけど、無理しなくていいよ。あんたはそういう人間なんだから」
彼女は優しい。
本当に優しい。
彼女は俺には勿体ないくらい素敵な彼女だ。
「……君は優しいな」
「あったり前でしょ〜!あんたの彼女だもん!」
「……なんだよ、それ」
俺は『君の彼氏』ってことが誇らしい。
それがずっと続けばいいな、なんて思ったら、
また笑われるだろうけど。
それが伝わるように、強くなろう。
今日はそれを本気で考えた夜になった。
■テーマ:突然の君の訪問。
僕は駅に佇んでいる。
ただあなたを待っている。
帰って来てくれる、と。
お母さんは「もう帰って来ないよ」って言うけど、
僕は帰って来るって信じてるから。
雨の中、「行ってきます」ってあなたが言ったから、「ただいま」もセットだと思っていた。
でも、あなたは帰って来ない。
昨日も、一昨日も。
今日は帰ってくるかな?
僕はあなたの「姿」ではなく、
「ただの箱」と「ただの袋」のあなたしか見てないから、
信じてないんだ。
だから、今日も信じて帰りを待つ。
今日は雨だから、傘を持って佇む。
僕はお父さんに「おかえり」を言うために、今日も。
■テーマ:雨に佇む