10/1/2023, 4:50:35 PM
『たそがれ』
床の軋む音
舞い上がる埃の影
足裏に刺さる木のささくれ
窓から匂う夕陽の木漏れ日
割れた白い皿の上のカビたクロワッサン
焦げついたベーコンエッグと煤まみれのフライパン
ドライフラワーの入った茶色の紙袋
枯葉の積もった狭い庭先
郵便屋が手紙をポストに入れる気配
色落ちした羽根ペン
まるで新品の濃紺色のインク
割れ目の目立つブラックオークの机
針の止まったサファイアの懐中時計
埃被った聖書
隅に走り書きの小さな童話
棚の上に無造作に置かれた水晶の破片
畳まれた布切れと編み込みのバスケット
薄暮から伸びる影
玄関の門の軋む音
9/27/2023, 2:13:45 PM
『通り雨』
はっとする冷たさに
憂鬱は攫われた
愁いしとしと流れ落ち
燈ゆらゆら灯る
率爾な雨音の報せに
閑静に苛まれた心が
ふと我に返る
喧騒まがいの序奏は
穢れを洗い流していく
8/25/2023, 4:43:23 PM
『向かい合わせ』
パラソルの影から少しはみ出た顔が太陽に照らされて
ふとした瞬間笑顔が花咲く
手元のシャアした冷たい抹茶ラテは
季節外れの桜の味
8/2/2023, 3:37:47 PM
『病室』
初めての一人旅の思い出を映す
フィルムを一枚拾い上げた
そこに映るは白い病室
頭痛と吐き気に耐えきれず
駆け込んだ空港の診療所
脱水症状だと告げられ
人生初の点滴をした
そのときぼんやり見ていた天井が
一枚の思い出のフィルムに現像されていた
6/27/2023, 11:46:03 AM
『ここではないどこか』
遥かなる時の末を見据え
指折り数えたすぎゆく日々
頬を伝う雫はいつしか
空舞う花びらのように消えた
儚く灯火のようなゆらめく存在に
想い出を重ねたいと思う
忘却の宣告は私が受け止めるから
ここではないどこかで
またいつかの報せを待っていよう