『子供のように』
今バスに揺られて窓の外を眺める
行く先も何も分からないまま
一人でゆられている
錆びたガードレールと街路樹の落とす陰
ただ目の前を流れ続けている
小雨が降り始めて
日も少し傾いた
防災無線から掠れた時報
閑静な住宅街からは自販機の電子音
どことなく似ている
私が知っている昔と
よく思い出せないけど
楽しかった記憶
今ガードレールや街路樹はビルに変わり
電車は騒々しく思考を攫う
明日も明後日も繰り返し
忘れてしまった母の言の葉
たまには有給でもとって
忙しく走り回ってはしゃぐ
子供のように
『たそがれ』
たそがれまじりのそらのねは
よけてくれないあまおとならす
じっとみつめるまなざしの
そのさきのゆううつなすいへいせん
『窓から見える景色』
日は沈み
窓の外を眺める私
夜の散歩という名目で
逃げ出したい心模様
光に苛まれ
星のひとつさえ見えない夜空に
こっそりとこっそりと
逃げ出したいのに
網戸越しに見える景色は
少し荒めのドット絵で
寂しく感じるんだ
くだらないって思うんだ
そうして夜は明けてしまい
いつ来るか分からない冬に
怯え閉じこもるのだろう
きっと明日も晴れ模様
そう信じて歩けばいいのに
冷たい窓に手を触れ
遠くをぼんやりとながめる
うつつにうつったタワーマンションの灯り
ぼんやりぼやけたひとつのヘッドライト
ひんやりひえたコンクリートの壁
私もそうやって窓の向こうに見える
閑静な夜に隠れたい
『大事にしたい』
忘れていた
いつの日か「私」が消えること
知っていた
いつの日か「私」が消えること
「消えたくないんだ」
命という名の灯火は小さくなって
やがて消えてしまうこと
「私」という名の記憶は時の風に攫われて
やがて消えてしまうこと
「消えたくないんだ」
消えること
消えること
「私の存在が証明される今のうちに」
消えないように
消えないように
『夜景』
自宅の仕事机から窓の外をふと眺める
遠ざかる無数のテールライト
今部屋の灯りがひとつ消えた遠くのタワーマンション
明後日頃に台風が来るという予報を聞いて
嫌に鳴る冷えた空気に怯えている
溶けかけたアイスを投げ捨てて
夜景の見えない部分が汚れてしまった世界
明日も同じ景色だってのに
何かに焦って違いを見つけようとしている
変わらない 分からない やるせない
まるで私も夜景みたいな孤独感