【岐路】
岐路がなんだってんだ。関係ないじゃないか。結局変わっていくのも出ていくのも俺じゃない。俺じゃないやつらが勝手に変わって勝手に嫌気がさして悪口叩いて出ていくんだ。そんな村のことをばあちゃんは馬鹿みてぇだと大笑いした。そりゃ、そうだと思う。でも、それと同時に家のばあちゃんすげぇって思ったんだ。強くて優しくて料理が美味い。ばあちゃんってすげぇ。
「スイカが食べたいな。」
ある冬の時期からもう少し、もう少しだ、と。ばあちゃんが言うようになった。何がもう少しなの、と聞いても答えちゃくれない。今の季節は夏。うちわで仰ぎながらあちぃなって思ってたら急にばあちゃんが言い出した。
「仕方ないな。」
なんとなくだけど、ばあちゃんは今外に出しては行けない気がした。暑さで倒れてしまうとかそんなんじゃない。ただ、何となく。虫の知らせとでも言うのだろうか。いつも吠えてくる犬の家を素通りして坂道をダッシュで駆け上がる。このスイカが冷たいうちに、と。もう冷たくないかもしれない。それでも、できるだけ。できるだけ、早く。部屋に帰ると嫌に静かな部屋が俺を迎えてくる。変わっちゃいない、関係ない。岐路がなんだってんだ。人生の岐路ってなんだよ。今の生活が変わることなんて、ありえない。外にいる時に母さんから電話が来た。いつ付けたのか知らない体調管理の為の物に異変があったからばあちゃんの様子を見てくれって。我儘なんて聞かずにここにいればよかった。間に合え、そんな一心で駆け上がった。
「ただいま。」
スイカはまだ冷たかった。
【世界の終わりに君と】
歪んだ関係を直すため。世界の終わりに君とキスしよう。明日の自分に後悔はないかと、問いただすため。いや、明日なんてないのだけれど。
「キス甘かった?」
「知らないよ。」
ウブな顔して純愛じゃない。なれなかった。君はあの子に、私は君に。
「最後なのによかったの?」
「世界の終わりだもんね。」
昔の馴染みでしょ、なんて笑われる。私が拗れていなければ。
「クズみたいな顔。」
「クズなんだよ。」
もし、もしもしも。勇気をだして好きだと伝えていたら何処まで続けられていたんだろう。ふいに頭を占める思考。駆り立てられた。言わなきゃ、って。
「ずっと好きだったよ。」
「もう遅いよ。」
あー、やっぱりだ。そっか、わたしが歪んでいなければ。早いうちに気づかせてくれればよかったのに。クズみたいなこと言うねって、前置き。
「世界の終わりに君とキスしよう。」
【最悪】
最悪だ。こないだから始めたダイエットは続かない。好きなあの子には恋人が出来てた。全部始めるのが遅すぎたのかも。そんな中聞いたあの子お前に気があるらしいよの噂。そんなの期待するしかないじゃないか。
「好きだったよ。」
過去形だった。どうやら、痩せてしまった僕はタイプじゃないらしい。あー、やっぱり最悪なんじゃないか。
【誰にも言えない秘密】
誰にも言えない秘密は女の武器だってお母さんが言っていた。だから、私は秘密を作った。嘘を吐いた。このリップを塗ると勇気が出るんだってさ。ヘアセットは気分で元気さも違う。私にとって私が可愛くなるための嘘。
「アンタは世界一可愛いよ。」
そう言って、彼女は私の少し乱れた前髪を正し始めた。
「貴方の娘だからね。」
それが口癖。私はこの人の娘。だから、世界一可愛いんだ。
【狭い部屋】
この狭い部屋でコーヒーを飲みながら落ち着いてテレビ見たり友だちと電話したりするのが俺の趣味。なんてったって広い部屋は落ち着かない。家族と住んでる時はとても広い部屋だった。家が二階建てでいわゆる豪邸って言われるようなだから、嫌だ。あの人たちをもう思い出したくはない。
「逃げたんでしたっけ?」
「そ、だから近づかないの。」
嫌になるね。広い部屋で人の死体を見るなんて。それも小さい頃。トラウマもんだろ。