【天国と地獄】
死んだらどこ行く?
天国?
地獄?
何で分けるの?
一つでいいじゃない
良いことをしても、悪いことをしても、
死んだらみんな同じところに行く
何で隠してるんだろう
あれ?言っちゃいけなかった?
【月に願いを】
人はなぜ手の届かないものに願いを託すのだろう?
【降り止まない雨】
ビルを出ると雨が降っていた
困った
家を出るとき持ったつもりだったのに
鞄の中に折りたたみ傘はなかった
傘をお忘れですか?
振り向くと蛙が二本足で立っていた
ええ、うっかり忘れてしまいまして
よかったら、この傘使ってください
いえそんな…あなたの傘でしょう?
構いません、私には本来は必要ないものなので
でも…
いいんです、妻がね、心配性なもので無理矢理持たされているんですよ
いい奥さんですね
いえいえ、むしろ私は思う存分雨にうたれたい日もあるわけででして、まぁそんなわけで、困っている同僚に傘を貸して仕方なく濡れて帰ったことにしたいわけですよ
そうですか…、では、お言葉に甘えて、お借りします
どうぞどうぞ
ビルの前で別れの挨拶を交わして傘を差す
雨粒がリズミカルに傘を打つ
振り返ると彼は小さくスキップをしながらゆっくりと家路についた
雨はまだ止みそうにない
【あの頃の私に】
いち子は通話を切って長く息を吐いた。
よほど緊張していたのだろう、長い髪が首筋にベッタリと張り付いて気持ちわるかった。
(言いたいことは言えたはずだ)
いち子は言い聞かせるようにぎゅっと手をにぎりしめた。
(信じてくれないかもしれない。それでもいい、これが少しだけでもあの子のためになるなら)
電話、誰からだったの?
わかんない、知らない女の人
なんだって?
よくわかんない
いやぁねぇ、いたずら電話かしら?
いたずら…なのかなぁ?
ほら、おやつにするから手を洗ってらっしゃい
はーい
いち子は受話器を置いて手を洗いに洗面所へ向かった。
(変な電話だったな、でもすっごく一生懸命だったな)
いち子ちゃん、聞いて、これから生きていくなかで
辛くて苦しくてなにもかも無くしてしまいたくなる
そんな時がくる…、かもしれない…
けどね、それはずっとは続かないから、
苦しみに目隠しされて周りが見えないだけだから、
回りをよく見て、探してみて、
苦しみに手を差し伸べてくれる人はきっといるから、
声を出して助けを求めていいんだよ……
……いち子ちゃん、私、あなたのこと、大好きだよ
誰がなんと言おうと私はいち子ちゃんが好きだからね!
…じゃあ、また、ね。
生きることからは逃れられない