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【あの頃の私に】
いち子は通話を切って長く息を吐いた。
よほど緊張していたのだろう、長い髪が首筋にベッタリと張り付いて気持ちわるかった。
(言いたいことは言えたはずだ)
いち子は言い聞かせるようにぎゅっと手をにぎりしめた。
(信じてくれないかもしれない。それでもいい、これが少しだけでもあの子のためになるなら)

 電話、誰からだったの?
 わかんない、知らない女の人
 なんだって?
 よくわかんない
 いやぁねぇ、いたずら電話かしら?
 いたずら…なのかなぁ?
 ほら、おやつにするから手を洗ってらっしゃい
 はーい

いち子は受話器を置いて手を洗いに洗面所へ向かった。
(変な電話だったな、でもすっごく一生懸命だったな)

 いち子ちゃん、聞いて、これから生きていくなかで
 辛くて苦しくてなにもかも無くしてしまいたくなる
 そんな時がくる…、かもしれない…
 けどね、それはずっとは続かないから、
 苦しみに目隠しされて周りが見えないだけだから、
 回りをよく見て、探してみて、
 苦しみに手を差し伸べてくれる人はきっといるから、
 声を出して助けを求めていいんだよ……
 ……いち子ちゃん、私、あなたのこと、大好きだよ
 誰がなんと言おうと私はいち子ちゃんが好きだからね!

 …じゃあ、また、ね。
 

5/24/2024, 4:23:18 PM