心の灯火
日が落ちてきて明かりを灯すと、ぼんやりとだけれど心が楽になってくる。
人前では気を張っている分、なんとなく心に自分が戻ってくる気がするのだ。
人前にいる私には、心に自分がいない。
それがどういう意味なのか深く考えたことはないけれど、きっと素の自分自身で人と接していないということなのだろう。
私はそれでもいいと思う。
私が許さなければ、自分の中の自分の居場所がなくなってしまうと思うから。
誰にも心を許さなくても、生きてさえいれば私が私を許すことができる。
心の灯火。
それは、心に自分が戻ったときのひととき。
開けないLINE
LINEを開かなくなった。
繋がりのある人はもうほとんどいない。
数人の家族や親戚と年始の挨拶をするぐらいしか利用していない。
通知はたくさん来る。
クーポンのために登録した美容室だとか、来店特典のために登録したお店だとか。
あとはAIのBotとかね。ギャルとか神とか。
通知音が聞こえると安心するとともに、不安が押し寄せてくる。
このままでいいのかな、だめなんじゃないかな。
それでも今は今を生きるのが精一杯だから、誰かに許してもらえることを期待している。
不完全な僕
いちいち何かと比べて完全かどうか指摘しなくてもいいじゃないか。
不完全? 別にそれでもいいよ、そんな傲慢な思考は持ち合わせていないんでね。
完璧は見せちゃいけないんだ。わかるかい?
一度できることを見せたら、次もできるんじゃないかと期待されてしまう。
ありもしない完璧という幻想に取り憑かれた人の言うことを気にしてたらきりがない。
だから僕ははっきり言うよ。
できないんだ。だから、僕に構わないでくれよ。
香水
香水をつけるのをやめた。
いい香りでいることより、いい香りの場所にいたいのだと気づいたから。
部屋にアロマを焚いた。
オレンジ、ベルガモット、サンダルウッド、ローマンカモミール。
和香油もいくつか試した。
紫陽花、蓮、水、桜、桃、柚子。
ああ、やっぱり。
私がいい香りでいるより、いい香りの場所を身近に作っておくことの方が気持ちいい。
言葉はいらない、ただ…
言葉よりも雄弁な、想いと態度が示している。
「あなたは立派にやり遂げました」
それを、あなたは「私なんて全然です」などと否定する。
「私なんて、人間未満です。全然まともなことができなくていつも反省ばかりで」
本当に恥じたように縮こまるので、私も言葉選びに困る。
「そんなことはありませんよ。あなたはひとつひとつの出来事に真剣に取り組んでいるのですね。小さな失敗ひとつ自分に許すことができない」
「……はい」
「完璧な人間は存在しません。失敗したということは、あなたは間違いなく人間だということです」
あなたははっと目を見開き、やがて伏せた。
瞼が震えるのが見える。
「私は、人間……」
「ええ、そうです」
「あなたは?」
帰ってきた質問に言葉はいらない、ただ……
にこりと微笑んでみせる。
たった今大きな失敗をしたように、安心させるように。