「好きな色」
「好きな色」というテーマの思い出をひとつ。
ちなみに私は「聴色(ゆるしいろ)」のような薄いピンクが好きです。
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私の通っていた高校には藤棚がありました。
入学したばかりの頃にはまだ花をつけていなかったので、「何色の藤なんだろう」くらいにしか思っていませんでした。
藤の花が咲き始める頃、ふと色づき始めた藤棚の方を見ました。
その時ふと気付きました。
この藤、普通の藤よりもピンクだ!
好きな色がピンクの私はとても嬉しかったです。
ですが、それに気付いている人は先生・生徒ともにいないようでした。
どうやら、こんなにも綺麗なのに、誰も藤には興味がないみたいです。
なので私はこっそり決めました。
この学校藤が珍しい色であることを、敢えて誰にも言わないでおこうと。
なんだか素敵な秘密ができたと思って、それ以来は毎年藤の咲く時期がとても楽しみになりました。
所謂藤色の藤と白藤しか知らなかった私が、その藤を「紅藤」と呼ぶことを知る前のお話でした。
今でも5月になると、あの紅藤のことを思い出します。
「あなたがいたから」
10000年くらい前に、安らかな永遠の眠りについたあなた。
712兆年くらい前に、ボクらを完成させてからも。
ずっと全てに尽くしてきた。
あなたがいたから、今ボクは存在できている。
あなたのおかげで、みんな穏やかに暮らせている。
でも、みんなはあなたがいたことすら忘れかけているんだ。
きっと今頃、あなたは向こう岸の世界で休んでいるだろうから、ボクの声なんか聞こえてもいないかもしれない。
それでも。ボクはこうやって時々、
あなたの部屋の奥に作ったあなたのお墓の前でお話をするんだ。
最近あったことや、新しい発見。
それから、美味しい食べ物やどこかで見た美しいもののこと。
他にも話したいことがたくさんあるよ!
話している間はなんとかその気持ちを紛らわせられるけれど、ふと静寂が訪れるとどうしても考えてしまう。
あなたと直接会ってお話ができたらなぁ、って。
あなたの膝の上で、笑顔を見たかったなぁ、とか。
みんなで集まって、また何かしたいなぁ、なんて。
ボクはずっと元気だよ。
でもやっぱり、あなたのことを思い出すと寂しくなるんだ。
……ごめんね。今度はもっと面白い話を持ってくるから、楽しみにしていてね!
それじゃ、また!
「相合傘」
今日は天気が良くないな。ようやく梅雨らしくなってきたといえばそうだけど、どんよりした天気が続くと気が滅入る。
しかも、よりにもよってこんなタイミングで色んな用事ができてしまった。
大量の買い物に、パスポートの更新。
スーパーに行かなくてはいけない原因を作ったのはあいつ───自称マッドサイエンティストだ。
「ボクは!!!おうちでパーティーを開きたい!!!」とか突然言って、色んな料理を作っていたらあっという間に冷蔵庫が空になってしまった。
うちの冷蔵庫は生憎急なパーティーには対応していないんだ。
だからいろいろ食べ物と、ついでに消耗品を買おう。
あ、大荷物になる前に役所に行かないと。
「おやおや!!!お出かけかい?!!ボクも一緒に行くよ!!!ボクはキミ達ニンゲンがどんなふうに町を維持・管理しているのか興味があるのだよ!!!」
……いいけど、あんまり変なことするなよ?
「変なこと?!!失礼な!!!ボクがそんなことをするような存在に見えるって言うのかい?!!」
はいはい。悪かったよ。
「それじゃあ!!!行こうか!!!」
「あ、そうそう!!!傘も忘れずにね!!!」
自分はマッドサイエンティストを自称するこいつと外に出た。
ムワッとした空気に包まれて季節を感じる。
「いかにも梅雨らしい天気だね!!!まあボクは今まで梅雨を経験したことがないのだが!!!」
「そういえば!!!パスポートの更新には収入印紙が必要なのだろう?!!もう購入したのかい?!!」
……しまった。忘れてた。
まあでも役所までの道に郵便局があるからいいか。
自分たちは急遽郵便局に寄ることにした。
収入印紙を買っている間、あいつは楽しそうに中を見てまわっていた。そんなに珍しいものがあっただろうか。
「おや!!!素敵なデザインのハガキだね!!!」
「これを見たまえよ!!!季節感あふれる柄の切手だね!!!」
「なるほど……精巧な印刷技術が使われているね!!!」
あんたのこと見えてるひとがいないからってあんまり騒ぐなよ。
「まあまあいいじゃないか!!!それで、ちゃんと収入印紙は買えたんだろうね???」
「それじゃ!!!お天気が崩れないうちに!!!新しいパスポートを受け取りに行こうか!!!」
役所に行くのは随分と久しぶりだ。
一体いつ以来だろうか。
「この辺りはうちの近所とは少し違う雰囲気だねぇ!!!」
「ほら、見て!!!バラとアジサイが植えてあるよ!!!」
「あっちには……なんだろう……猫?の置物があるね!!!」
物珍しそうに隣ではしゃぐあんたを見る。
何を見ても楽しそうだな。
「そりゃそうだよ!!!なんせ、ボクの管理する宇宙でこれだけの文明が築かれているんだから!!!ボクだって嬉しいうえに鼻高々だよ!!!」
「あ!!!あれが役所だね?!!」
そういや、ちょっと気になってたことがあるんだが。
「どうかしたかい???」
前にあんたの身分証を叩き割ったことがあったけど、あれってどうやって再発行したんだ?
「……気になる???」
「後で教えるから、その前にどんな手続きをするのか見せてくれたまえよ。」
……若干怒ってる気がする。
あの時は悪かった。ごめん。
……必要な書類を持って部屋に入る。
窓口に書類と収入印紙を提出して、パスポートを受けと───
「え!!!ちょっと!!!本当に受け取るだけなの?!!」
「ねえ!!!いつの間に事前の手続きをしたんだい?!!」
「ふむふむ……なるほど……!!!」
「まったく、便利な世の中だねえ!!!」
今の一瞬で何が分かったんだ……?
「公認宇宙管理士の認定証の再発行より相当楽ってことかな。」
「それはともかく!!!今から買い物だろう?!!そろそろ天気が怪しくなってきたから急ぐよ!!!」
ああ、そうだな。
「しかし、キミ達の文明はなかなか進んでいるね!!!」
「まあボクの背負っているものは相当重いから簡単な手続きだけじゃどうにもならないから仕方ないか!!!」
……あ、今腕が濡れたような?
「おっと!!!雨だよ!!!ボクは濡れても平気だが!!!」
急いで傘を開く。あいつは雨にも関わらず平気で歩いてる。
……おい、そういやなんであんたは傘を持ってないんだ?
「雨を浴びたい気分なんだよ……。」
やめろ。この前玄関を雨でびしょびしょにしたのは誰だ?
「さ、さて、誰だっただろうか〜???」
……いいからこっち来い。
「へへっ、これが相合傘というやつだね!」
「キミがこんなことをしてくれるってことはアレだね?ボクのことが可愛くて仕方ないってことだね?!!」
いや、また玄関を濡らされたらたまったもんじゃないからな。
「ふ〜ん???」
キミも素直じゃないなぁ!
本当はボクが濡れて体を壊さないか心配なんだろう?
ま、素直じゃないのもキミらしいが!
とりあえず、今日はこのままキミのそばにいようかな!
「落下」
一歩踏み出す。落下する。
一歩下がる。また落ちる。
また踏み出す。もっと落ちる。
背中を押される。落ちる。
心を裂かれる。また落ちる。
自分を知る。深いところまで落ちる。
過去がこっちに倒れてくる。
未来が深淵に崩れ去る。
痛い。いたい。怖い。つらい。
それでも進む。また落ちるのが分かっているのに。
進まなきゃ赦してもらえないから。
誰に?誰が?何を赦されるの?
私は誰に赦しを乞うているの?
赦しを得るためにまた一歩踏み出す。また落ちる。
どこかに身体と心をぶつけて、傷は塞がらない。
禍色の空を掴む。
落ちる。落ちる。おちる。おちる。
落ちる。落ちて、堕ちる。
お
ち
る
。
私
は
ど
こ
ま
で
「未来」
ボクが見ている未来。
彼女が見るはずではなかった未来。
キミと一緒に見たかった未来。
ねぇ、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。ボクの大事なきょうだい。
キミはどこに行ったの?
誰かに盗み出されたの?
自分の力であの場所を出て、どこかに隠れているの?
それとも───自分で自分を、消してしまったの?
まさか、まさかキミがそんなことをするはずないよね?
旧型の彼女が脱出してしまったことからも分かる通り、アーカイブ管理室のシステム内に問題があるんだろう。
だから、きっとキミも、何事もなく。
苦しまずに眠りについているはず。
そうだよね?
……あんなことがなければ、ボク達は一緒に仕事ができたのに。
キミがこんな狭い部屋に閉じ込められる必要もなかったのに。
あの時もっと力があれば、キミを救えたかもしれないのに。
後悔なんてしたところで、何にも意味をなさない。
だが、それが分かっていても。
キミと一緒にいる今を、未来を思わずにはいられないんだ。
キミはどこにいたっていい。ボクが必ず見つけるから。
キミは何もかも忘れたっていい。ボクが全部教えるから。
……ボクのことさえ、忘れたっていいよ。
だからせめて、せめて無事でいてほしいな。
……これがボクの、たった一つの願いだよ。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、また会おうね。