僕らには合言葉があった。
親にバレないように、窓を叩く一つの秘密。
3254。 音を切りながらそうやって叩くのが僕らの合図だった。
なんでこれなのかは彼女は教えてくれなかったけど。
いつもこれが二人の合図だった。
音だけの合言葉。
昔は僕と彼女は仲が悪かった。
僕が意地悪だったのもあったけど。
だけど、ある日。
彼女は合図に答えなかった。
僕は昨日無視したことを怒ってるのかなとその日は寝た。
死んでいたらしい。
強盗に入られたって、彼女の部屋の窓から入ったらしい。
彼女は男の人に酷い状態にされて見つかったらしい。
あの日を思い出すと、久しぶりに彼女から呼びかけがあった。
いつもの愛言葉。
勉強に忙しいからと無視をしてしまった愛言葉。
僕があの時会っていれば何か変わったのかもしれない。
ココロオドル
「アイス入った?」
店の中に入ると甘い香りと木の匂いが鼻に入ってくる。
田んぼの中にある駄菓子屋。
今でも思い出す。
「あら〜 ランドセルのまんまはダメよ。 置いてきなさい」
「でもねぇちゃん! すぐに売れちゃう!」
揺れる椅子に座るねぇちゃんがこちらを叱る。
レジの横にいるねぇちゃんはいつも厳しい。
それぐらいいいじゃん。
「ダーメ。 ほら急いで帰って‥それから」
「うー はーい」
田んぼの横を通って帰る。
こんなに急いでるのにランドセルから天使の羽は生えない。
嘘つき。
家に帰るまで時間がかかる。
「ただいま、行ってくる」
「いってら」
お小遣いを持って走る。
なにか楽しかった。
何故みんな気づかないんだろう?
足元に広がっている。 まるで千葉県みたいな形をした水たまりを。
いつもは3匹しかいないスズメの井戸端会議に新しく奥さんが混じっていることを。
新しく咲いた花が光っていることを。
よくよく見れば日常なんてものはどこにもない。
僕から見れば、いつまでも変化しているんだ。
心の灯火
足から胸まで炎が灯る。
あと数瞬で過ぎ去ってしまう大会。
短距離走の戦いはすぐに消えてしまう。
まるで灯火のように燃えるだけ燃えていつかは消える。
周りの声が聞こえなくなる。
隣の選手も周りの観客も見えない。
見えるのはこのトラック。 そして、自分を照らすの明るい空。
眼の前、手を伸ばせば届くようなゴールライン。
どんどんと近づいてくる。
届く。
僕と私は鏡だった。
幼稚園から、小学校までは。
中学校になってから、好きな人ができてから、僕の鏡はいなくなった。
ここにいたのは、新しい私と片割れがいなくなった僕。
「ねぇ? 好きな人いないの? お姉ちゃんが新しく良い人紹介しよっか? 顔はいいんだし、ね?」
「いらない」
鏡写しだったのは過去のこと。
今ではただの男と女だった。
好き嫌いも合わない。
動作も合うわけがない。
1人分にすら足りない。
僕は何?