扉が開いた。列車を降りる。差し込む西日に影を伸ばされながら、ホームに出る。
無人駅。なんの変哲もない駅。まだきっと途中の駅。でもそれが、私にとっての終点である。
ああ、ここに降り立ってしまったということは、もう向こうには戻れないということ。
歩みに後悔が乗る。
一歩
また一歩と
全てにサヨナラをするその歩み。
もうこれ以上行けるお金は残ってないんだ。
そうして私は、生前の病を振り払うようにして、深呼吸を一つ。
孤独死を物語る無人駅から、
一歩
また一歩と
遠のいていく。
私を取り巻く全てにありがとうと伝えながら。
みんなと同じように生きたい。
けど叶わない。
教えてよ。私にもやらせてよ。
誰も私を普通とみなしてくれない。
だれか
誰か助けて。私をちょっとだけ救ってほしい。
誰も見向きもしない。
けど、彼だけは違った。
「上手くいかなくたっていい」
そう言って手を差し伸べてくれた。
私も、みんなと同じ生き方を......
昨日、私は少しだけ、手を伸ばせた。
腫れ物らしく世界の隅で
淡く溶けだす血の涙
大人のフリができない僕に
飛び交う痛みは哀の唄
ただ宛てもなく家を飛び出て
近所の空虚に駆け込んで
『蝶よ花よ』と刺された釘は
僕を貫く非難の目
こうなることも、ああなることも全部。
「未来は変えられる」じゃない。
未来は変わらない。
変わらない
変わらない
変わらない
悪口もいじめも失恋も
全部最初から決まってた。
ああ、次はいつ死ぬのだろうか。
最初から決まってた。死ぬことも、蘇ることも。
記憶のようで、実は明日には起こること。
既視感がそれを確実なものにする。
私に光をよこしてくれるな。
この醜い私に。
お願いだから照らさないで。
私を浮き彫りにしてしまう。
おはようと声をかけないで。
私を照らすあなたは光。
やめて視線を向けないで。
闇を消し去る哀れみの視線を。
でもさよならとは言わないで。
月明かりはひどく冷たいから。
あなたの温もりだけが欲しい。
影を消さない月光にかわって。
もうごめんねとは言わないで。
影を焼き殺すあなたは太陽。
一人の犠牲で全て助かる。
あなたに殺される私は影。