太陽のようなあの子。
いつもみんなの中心にいて
みんなを明るく照らして
全てを持ってるあの子。
憧れだった。
かっこよかった。
羨ましかった。
顔が可愛くて
運動ができて
友達が沢山いて
勉強もできて
家もお金持ちなんだって。
この前、日曜に家族と旅行に行くんだって
嬉しそうに話してた。
きっとこの子は悩みなんてなくて、
死にたいなんて思った事ないんだろうな。
土曜日の朝、太陽は光を失った。
彼女は自分からその道を選んだ。
みんな泣くことはなかった。
どちらかって言うと驚きの方が勝ってる感じ。
なんであの子が…?
何もかも完璧な人生だったじゃない。
顔も才能にも環境にも恵まれて生まれて、
旅行に行くんじゃなかったの?
あんなに嬉しそうだったのに…
どこに死ぬ要素があるの?
あなたは何に悩んでいたの?
何に縛られていたの?
私たちは結局
太陽の光が眩しすぎて
太陽自体を見れていなかったのかもしれない。
友達が学校に来なくなった。
いわゆる不登校ってやつになったんだと思う。
心配とかしなきゃいけないんだろうけど、
どちらかって言うと私は友達に嫉妬した。
私だって行きたくない。
友達だって少ないし、楽しいことなんてひとつも無いし、毎日毎日苦しくて学校の先生も授業も雰囲気も全部大っ嫌いだ。
でも親は休ませてくれないし、朝から学校の事でお母さんと喧嘩なんかしたくない。
だから毎日泣きながら通ってた。
それでも友達は学校に来なくなった。
あの子は学校に来なくてもいい権利を勝ち取った。
羨ましかった。
なんであの子は学校に来なくても許されるのに
私は泣きながらでも通わなきゃ行けないの?
なんで私は苦しむ道しか許されないの?
なんで私は……
こんな事思っちゃいけない。
それを分かってるから、より自分が醜く見える。
そんな時、その友達から電話が来た。
「どうしたの?」
さっきまでの感情は嘘だったかのように心配するかのような声色で私は言った。
「ごめんね、突然電話なんて。でもあんたしか 相談できる人いなくって。」
か細い声で友達は答えた。
どうやらその子はその子で学校に行けない事に悩んでいるらしく、私に話を聞いて欲しいらしい。
「急に学校行かなくなって心配かけたよね。
ごめん。もうどうしても限界でさ。」
友達の声は少し震えている。
「次の日学校に行かなきゃって思うと夜も眠れないし、校門の前に来ると足は震えるしでさ。
そうしたら両親がそれに気づいてくれて今は休ませてもらってるんだけど…」
良かったね。休ませてもらえて。
理解のある両親で。
私だって同じ気持ちで毎朝登校してるよ。
眠るとすぐ朝が来るように思えるから眠るのが怖いんだよね。
登校中、だんだん同じ学校の制服来てる子達が増えてくると途端に緊張して冷や汗が止まらないんでしょ。
それをほぼ毎日続ける生活を考えただけで吐き気がするよね。
で、そんな友達の経験談に同情してる私にも腹が立つ。
私よりも辛そうにしないでよ。
私よりも泣きそうにならないでよ。
休めてるんでしょ。良かったじゃん。
もうそんな思いする必要ないんでしょ。
同情しちゃったら…あなたも私と同じだったんだねって…あなたも辛かったんだねって…
思わなきゃいけないじゃん…。
私が悲劇のヒロインでいたかった。
私がいちばん辛いんだって思いたかった。
そうすればなぜか心が楽になったから。
なのに同情しちゃったら…
友達はそんな私の気持ちなんて察しもせずに
学校に行かなくなっても不安は消えないだの、
周りの目が怖いだの、両親に顔向けできないだの、自分の悲劇っぷりを話した。
私はただ黙って聞いてることしか出来なかった。だってなんて言えばいいのよ。
ぶっちゃけそんな話聞いたって、可哀想なんてこれっぽっちも思わない。思いたくない。
私が羨ましがった環境を手に入れてるその子にさらに同情しろって言うの?
一通り自分の胸の内を話し終わった友達は、
「少し気持ちが楽になった」と言って電話を切った。
私は自分のあまりの惨めさに涙を零した。
今日にさよならしたら明日におはようを言わなきゃいけない。
それがすごく嫌だった。
だからと言って、今日に踏みとどまりたいわけじゃない。
さよならしたはずの今日がまたやって来て、
また同じことの繰り返し。
それがすごく嫌なんだ。
今日にはさよならしたい。
だけど、明日におはようは言いたくない。
このわがままを叶える方法はひとつ。
私は、この世界にさよならをした。
お気に入りのメイク道具でお気に入りのメイクをして、お気に入りの服を着て、お気に入りの髪型にして、お気に入りのアクセサリーをつけて、お気に入りの靴を履いて…
そうしてお気に入りの私ができる。
お気に入りの私で外に出て、お気に入りのカフェに入ってお気に入りのメニューを注文して…
そうしてお気に入りのルーティーンができる。
これが私のお気に入りの人生。
きっと私より辛い思いしてる人がいる。
食べ物も食べれなくて、学校もろくに行けなくて、誰からも愛されない人がそこらじゅうにいる。
そんなのわかってる。
私が恵まれてるのはわかってる。
でも私だって辛いんだもん。
私だって苦しいんだもん。
満腹になっても、学校に通えても、家族に愛されてても、夜になると涙が溢れてきて明日が来るのを怖がっちゃう。
それでも自分なりに頑張って生きるから。
だから今だけは悲劇の主人公でいさせて。
誰よりも辛い人生って思わせて。
心を楽にするために。
次に進めるように。