『ねぇ、うまくできるかな?ぼく、やっぱり怖いよ。』
『大丈夫だよ。わたしがついてるじゃない。』
『…うん…』
『このために長い長い旅をしてきたんだ。』
『最後のおさらいしてもいい?』
『いいよ。』
『大気圏に突入したら、しっぽを引いて明るく光る。その間に届けられた願いを…』
『ひとつひとつ心を込めて叶うように天へ届けるんだ。何回も練習してきたから、心配ない。うまくできるよ。』
『ねぇ、ぼくたちの目的地はあの星かな?』
『そうみたいだね。青くてとっても綺麗な星だ。』
たとえ間違いだったとしても。
今日こそはついに手に入れたコイツをカレーに混ぜて食べよう。
匂いと色に変化は…たぶん、無し。
正露丸も準備した。
今日はもう予定が無い。
ご飯も艶やかに炊き上がってる。
さて、両手を合わせて…
『いただきます』
新年度が始まり、新たなメンバーを迎える。コロナ禍を経てなお、消滅しなかった我が課の『歓迎会』。
飲み放題付きのよくあるコースがテーブルに並ぶ。サラダ、刺身、ポテト、唐揚げ…課長はもちろん動かない。若手は並べられた皿を眺める。大丈夫任せて、ここは中間年齢の私の出番。慣れた手つきでそれぞれ手際よく取り分ける。
さて、ここで困るのが、唐揚げ。皿の端に鎮座するレモン。輪切りなら箸で絞れるが、今回はくし切り。周りの同意を得て、おしぼりで手を綺麗に拭いた後、レモンをくの字に曲げる。
途端に瞬間に広がる爽やかなレモンの雫たち。最後の一滴までしっかり搾り出し、また手を拭く。
手に残る微かなレモンの香り。にぎやかな居酒屋の雰囲気を忘れさせてくれる。この瞬間がたまらなく好きだ。
申し訳無いけど、この楽しみは若い子には譲れない。
もし、未来見れたなら。何度も思ったことがある。未来がわかれば、今悩まなくて済む。この苦しみからきっと逃れられる。
そう信じていた頃があった。
でも、結末を知ってしまったら、楽になるのと引き換えに、生きる喜びも手放すことになると気づいた。
分かっているのは、いつか終わりがあるということだけ。
だから、人は希望をもって生きる。
見えない未来は自ら創れば自ずと見える。
今の連続が未来であり、過去だから。