届いて……。
届いて欲しかったのは一通の手紙。
日本に来た私の目下の悩みは当時付き合って6年の彼氏についてだった。
ルイースくん、私と苗字が連番だったために移動教室では手を繋いで廊下を歩いた。(小学1年、2年の時は移動教室の度に男女2列に並ばされて手を繋いで先生の後について行くスタイルだった)
彼はエクアドル出身の子で、住まいは同じくニューヨークのクイーンズ。どうやら日本のアニメ、特にドラゴンボールが好きだったようで、よく悟空の絵を描いてはどう?と評価してくれと見せてくれた。
彼と正式に付き合った日はいつだったか分からないが、頬にキスはよくあったし、誕生日に指輪やブレスレットをくれたり、バレンタインに花束を貰ったこともある。
彼のお姉さんに紹介された日に、ああ、私ってガールフレンドだったんだな、と意識した。
子供ながらになかなかラブラブなカップルだったんじゃないかと思う。実際周りの子は案外付き合っては別れてを繰り返していたから。(まあ別れたからと言って友達に戻るだけなので気まずいとかはなかった)
しかし私の突然の日本への帰国に私は事情を説明することも、連絡先を交換することも叶わずに彼の元を去った。
ルイースに手紙を書いて、父親に送って欲しいと頼んだ。母親には手紙を保管された上で届かないとわかっていたから。
結局その手紙が届いたのか届いていないのか10年経った今でも分からない。返事はなかった。
あの日の景色。
家族みんな揃って写真を初めて撮ったのはエンパイアステートビルディングの前だった。末の弟が産まれて、お父さんが仕事から帰ってきて、私が寮から一日だけ帰ったその日。
ちょっと薄暗くて、でも広告が燦燦と輝いて、お父さんとお母さんは弟妹3人に忙しそうで、私に構う暇はなさそうだったから、私はシッターのアリスをスマートフォンで呼んで一緒にライオンキングを見に行った。
アリスはブロードウェイミュージカルを見るなんて初めてだ、と楽しそうだった。私もアリスと一緒に観劇を楽しんで、寮に戻った。
あの日の景色、と問われて思い浮かぶのがエンパイアステートビルディングの壮大さではなく、暗い劇場のオレンジ色の夕焼けにキリンやライオンの群れだと答えるのは薄情だろうか。
願い事。
大人になると七夕を忘れる。
小さい頃は折り紙で金色や銀色の短冊を作ったことがある。子供なら誰でも1度はやったことがあると思う、ギラギラの短冊に読みにくいマッキーで書く願い事。
空恋。
空恋という言葉って存在するのかな、って考えたけど思いつかないので調べてみた。
『恋空』という映画が出てきたけど、『空恋』はどうやら存在しないらしい。
じゃあ空に恋した鳥の話でも考えようかな、って思って
空を飛べない鳥、キーウィやダチョウ、ペンギンなど色々考えたけど、私には動物の知識が足りないことに気がついて挫折した。
これを機に動物について調べてみようかな。
波音に耳を澄ませて。
海は好きじゃない。
磯臭いし、潮風はベタベタするし、塩で肌は痒くなるし。それに沖縄の海をスキューバダイビングして思った、江ノ島とかの海そんなに綺麗じゃないなって。
でも風景としての海は好きだ、波がキラキラしていて、文字通り絵に描いたような海。
だからあまり現実の海に近づくことは少ない。最近貝が有名なお店に食事に行ったのだが、大きめの欠けもない法螺貝が置いてあった。
法螺貝と言えば吹き鳴らすブオーっという音がなんだか印象的だが(実際聞いたことは無い)
耳に当てると波の音がする、というのも有名だ。(もしかしたら私の中だけ有名なのかもしれない)
小さい頃聞いた貝殻の音はザーッという、血液が耳を通るような音だった気がして、ふと波音に耳を澄ませたくなった。
耳に法螺貝を当ててみる。
ボォーッとも、ゴーッとも取れるような不思議な音がした。
もっとザザーンという波打ち際の音がしたら良かったのにな。