「小さな勇気」

小さな手の中に
小さなコインを握り締め
小さな震える声で

「これください」

小さな勇気を振り絞った
小さな頃の物語

悲しみの想い出は
古いフィルム映画のよう
途切れ途切れに
再生されては止まり
巻き戻しては止まる

埋められない思いが
行き場をなくした空白を
早送りしながら
彷徨うしかない心を
持て余している

足元に落ちてしまった
パズルのピースのような
想い出の欠片が
今もまだ
ただ静かに
そこにいる

「終わらない物語」

この世界は
いくつもの愛の物語を紡ぐ

物語の主人公はいつも
愛に迷い愛に嘆き
幸福と不幸を繰り返し
喜びと悲しみの狭間で
目の前の物語に揺れる

時に人々は
愛を求めていたことさえ忘れ
愛を否定し
隣人の幸福を羨み
隣人の不幸に酔い
自分の方が幸せだと
虚栄心の闇へと迷い込む

それでも
愛は諦めず
私たちの心の隙間に息を潜め
物語を紡ぎ続ける

永遠に終わらない愛の物語を

「やさしい嘘」

傷つけないように
気づかれないように

壊れないように
終わらないように

ひび割れた笑顔の裏側も
冷えた手の温もりも
視線が淀むその先も
そこに
私は存在しない

それでも私は
気づかないフリをする

そんな私に
あなたは
愛のかたちを模った
やさしい嘘をつく

「瞳をとじて」

思い出さない

君の笑顔の輪郭も
触れられた指先の記憶も

思い出さない

君の声の旋律も
風に漂う香りも

忘れたいと願っているのに
忘れることに怯えてる

君とよく似た後ろ姿に
君との時間が蘇る香りに
そんなものに惑わされ
忘れることを拒んでる
自分が嫌い

忘れたいと願いながら
君の面影に揺れる心で
今日も眠る

そっと
瞳をとじて