六華

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8/7/2025, 3:00:34 AM

『またね』

一匹の迷い犬
昼間あらわれて
夕方どこかにいなくなる
次の日も また次の日も
そのうち毎日やってくるようになりました

わたしはその犬に名前をつけました
今日は庭に姿が見えないなぁという日も
大きな声で名前を呼ぶと
はるか遠くからダダダダッと
ダッシュで走ってきて
私の足元すれすれに急ブレーキ
言葉は話せなくても
その顔はまぎれもなく
「呼んだ?」の顔です
はい まちがいなく呼びました

わたしはその犬とおしゃべりするようになりました
ちょっと前のめりですが
ちゃんとわかってくれてる気がしました
夕方の空はとても美しい
日が沈みはじめると
しっぽを大きくふって
またどこかにいなくなります

わたしは その背中と大きくふったしっぽを
見送ることをやめました
庭に犬小屋を作りました
くさりでつなぐことはしません
わたしとその犬の関係は今まで通り
昼間たくさん遊んで
夕方大きくしっぽをふって一日が終わります
帰る場所が変わっただけ

そんなある日
いつもの元気がありません
わたしははじめて動物病院に行きました
病院で教わったとおり
口を開けて一粒薬を入れる
口を閉じて上を向かせる
鼻にふっと息をかける
口の中を確認する
大きくしっぽをふって小屋に帰る
それがわたしたちの一日の終わりに変わりました

そう そうしていれば大丈夫
そう信じていたのに
とある夜 ヨロヨロとわたしのところに
歩みよってきました
『〇〇(犬の名前)またね』
あたまをなでてあげると
小さくしっぽをふり小屋にもどりました

どんなに遠くてもあらわれてくれたのに
もう名前を呼んでもあらわれません
わたしのいちばんきらいな言葉を告げるために
最後の力を全部使っちゃったんだ
犬小屋の中を見ると
すみっこに たくさんの白い粒

大きくしっぽをふる後ろ姿を思い出しながら
わたしは泣いて笑いました

8/2/2025, 3:16:57 PM

『波にさらわれた手紙』

あの夏の花火は
私たち家族にとって特別でした
その日が来るのを
父も
母も
兄も
わたしも
とても楽しみにしていました
なのに
遠くに見える
花火に願った
どうか、どうか

今年
また同じ場所で
花火が打ち上げられる

ポストに入れても届かない手紙
どうか、どうか





7/29/2025, 9:58:10 PM

『タイミング』

向こうから歩いてくる人が見える
まもなくすれ違うことになる
もちろん知らない人なので声をかけることはない
できるだけ目を合わせないように
相手のジャマにならないように
道の片側によってすれ違う準備をする

だいたいの人は
これでうまくいってるのだろう
言葉に出さなくても

でも、こんなことはありませんか?

右、あっ
左、あっ
すみません

時に
右、あっ
左、あっ
右、あっ
左、あっ
すみません

さらには
右、あっ
左、あっ
右、あっ
左、あっ
右、あっ
左、あっ
笑、笑
ほんとうにすみません…

向こうから歩いてくる人が見える
まもなくすれ違うことになる
気持ちを落ち着かせ
相手の動きをよく見る
相手のジャマにならないように
うまくすれ違えるように
心の中で駆け引きをはじめる

うまくやり過ごそうとしているだけなのに
相手のジャマになる
見ず知らずの相手と
挨拶までかわしてしまう
苦々しくも笑いながら

ただうまくすれ違うための
あたりまえでない
これがわたしの

7/28/2025, 1:26:07 PM

『虹のはじまりを探して』

この島では、
夜、虹が見えるという
沈む太陽と入れ替わるように
満点の星空の間を縫うように
夜空に向かってのびていく
満月に照らされた大海原を
七色にそめる大きなアーチ

最高の祝福を受けながら
その虹のはじまりを探しに
走り出す
虹が消えるまで、
ただひたすら
左へ、左へと

7/27/2025, 3:02:58 PM

『オアシス』

空の青
緑の木々

大地の音
鳥のさえずり

陽の光
湧き出す水

風の香
深呼吸

柔らかく
爽やかな

歩みを彩る
自分だけの景色

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