◎病室
#15
病室のベッドにはテーブルがついてる。
あれ、かなり素晴らしいと思う。
なんでって?
そりゃあ、心地よいベッドの中で紙とペンが揃うんだよ?
最高以外の何ものでもないと思うんだけれど。
紙とペンがあれば、
絵も文も記号も模様もメモも書ける。
色や書き心地、メーカーを変えればテンションを上げることもできる。
想像力の全てをベッドの上で存分に発揮できる。
入院したいわけじゃないけど、良いなぁ
って思う。
◎明日、もし晴れたら
#14
最近、雨がロクに降ってないからなぁ。
井戸の水もだいぶ底が見えてきた。
木陰に入っても地面はカサカサしてるし。
子どもらが外で遊ばない。
暑さにやられてぐったりしてるやつも多い。
活気が無くなってきたなぁ。
これ以上晴れが続くと、畑も駄目になっちまうだろうな。
そんときゃ、どうしようか。
山の神様に手を合わせに行こうか。
人の手ではどうもできないからなぁ。
雨が降らない。
となれば明日か明後日に、麓の村の者が来るだろう。
いらない生贄を携えて。
ホントいらないんだよなぁ。
生贄より桃食いてえなぁ。
参拝ももうちょい多くなれば緊迫するより前に手を打てるんだがなぁ。
「「雨降らねえかな」」
◎だから、一人でいたい。
#13
あの人と居ると声が小さくなる。
あの人と居ると汗が沢山でる。
あの人と居ると叫びたくなる。
あの人と居ると自分が自分じゃないみたい。
だから、一人でいたい。
家族を殺したやつなんかと一緒に居たら
気が狂ってしまう。
◎澄んだ瞳
#12
「ねぇ、キミも一緒に行こうよ!」
そう言ってボクを抱えたあなたは、後ろを振り返ること無く走り出した。
沢山の人と出会い、別れ、助けて、助けられた。
大切な仲間を得た。
あなたの傍らにはいつもボクがいた。
ボクもあなたの背を越すぐらいに立派に大きく成長した。
だから、だからさ――
置いていかないで。
名前を呼んでよ、あのときみたいに。
目を開けてよ。
あなたのその澄んだ瞳を、
未来をまっすぐ見据える瞳を
もう一度見せてよ。
トレーナーが口を動かしたので、皆が慌ててボールから飛び出した。
いつの間にかしわしわになったトレーナーの口から最期の息が漏れるのがわかった。
これはボクの役割だ。
なんとなく、本能的に理解った。
仲間が不安そうに見守るなか、そっとトレーナーの手を引く。
すると、薄く透けた懐かしい姿が起き上がった。
「あれ、皆どうしたの?」
少しおどけてみせるトレーナーに皆が笑顔になる。
「もう一度、最期の旅をしよう」
そう言って澄んだ瞳で見つめられて、断る理由はボクらには無い。
たとえ火の中、水の中。
死出の旅路ではボクが導くよ。
トレーナーを見届けるヨノワールの話
◎嵐が来ようとも
#11
嵐が来ようとも、
私は此処に”来る”んだよね。
”閉鎖された東京”
”歴史を守る本丸”
”人々を守るヒーローの傍ら”
”人の歴史の特異点”
”協調性の無いカレッジ”
”ザ•スケルド”
”偉大なる航路”
そして、
”白い紙の上”
私が私であるための
日常から少しズレた場所
今日は
どんな景色が見えるかな
どんな子に会えるかな
どんなストーリーがあるかな
どんな色かな
毎日覗いて
笑って
泣いて
これが
嵐になんて負けない
私の日常