◎遠い日の記憶
#3
人間は、ふと過去を振り返ることがある。
周囲の雰囲気だったり、季節独特のにおいだったり……引き金となる要素は辺りに溢れている。
それでも、どうしても思い出せないこともある。
小さい頃に一緒に遊んだあの子の声。
秘密基地にしたあの場所への行き方。
そして、産まれたばかりの頃のこと。
それらは、誰もが簡単には思い起こすことはできないものだ。
それでも。
移り変わりゆく町並みを見て私たちは時の流れに思いを馳せるだろう。
此処は昔はこうだったのかもしれない。
こんな人が生きていたかもしれない。
過去は、全てが現在に繋がっている。
思い起こすのはその土地が持つ記憶か。
もしくは、人々が紡いできた魂の記憶か。
遠い日の記憶は、
まだ此処で息づいている。
◎空を見上げて心に浮かんだこと
#2
「空を見上げて心に浮かんだことぉ?」
「うん。アサヒは何を思うのかなって」
もうすぐ夜になりそうな頃に聞くなよと思いながら、アサヒは考える。
雲が浮かんでるなら何かに見立てるところだが、今は一面の夕焼け色しか目に映らない。
「何つってもなぁ……藍色と茜色は正反対なイメージだけど、よく似合う……とか?」
自分でも何を言ってるのかわからないのに、隣を歩くユウは納得したようで何度も頷いていた。
「ユウは?なんて答えるんだよ」
「私は朝焼けを思い浮かべるよ。夜を越えて次に空が二色に染まるのは朝焼けの時だから」
楽しそうに笑うユウには夕焼けの色がよく似合っていた。
◎終わりにしよう
#1
「終わりにしよう」
そう言ってケイゴは両の手を前に突き出した。
「あぁ……俺も、そう思ってた」
正面に構えたコウタも指先に意識を集中する。
2人の間に冷たい風が吹き抜けた。
「行くぞ!」
「来い!コウタァッ!!」
「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」
コウタの指先が風を切り、ケイゴの鼻先を掠める。
「…………」
沈黙の後、コウタが膝をつく。そしてケイゴは天へ拳を突き上げ、勢いよく振り下ろした。
「コウタ……お前、なんでまた……っ!」
「俺だって、やりたくてこんな状況にしてるんじゃない……!」
「何度目だよ……これじゃあ、終わらねぇじゃんか!」
「「ババ抜き!!!」」
ループにはまった2人を見てアイスキャンディーを咥えたユウキは腹を抱えた。
「お前ら仲いいなぁ(笑)」
「「その(笑)ってのやめろ!」」
「ファーーーッw死ぬ、笑い死ぬwww」
それは暑い夏の日の、
クーラーの効いた部屋での一幕。