『遠くの声』
本を
ペラッペラッと
何気なく開いていく
…ふむ、これは……
では、この辺りにしましょう
ここなら今のあなたでも
耐えられるはずです
―――――――――――――――
(なんで俺が我慢しなきゃ!)
まるで小学生の男の子…
この声は……いつだったか…
(いやだ!いやだー!!)
まるで幼稚園児のような駄々…
この声は…確か……
(まって!その日はどうしても!)
これは…社会人一年目…
そう……この時だったら
少し覚えてる
(いやだって…言いたいのに…!!)
これは…、ぁぁ…これは……、
はぁ…!はぁ……!ぁぁ…!
―――――――――――――――
パタン!
…では、この辺にしましょう
お疲れ様です
どうぞ、まずは呼吸を整えて
飲み物も用意しました
あなたのお好きな
ホットカルピスですよ
…えぇ、お好きなタイミングで
飲んでもらって大丈夫ですよ?
まぁここは元々
夢の世界なので
飲んで大きく変わる訳では
ないかもですが、せめて
今の気持ちが楽になるなら、と――
時間のことはお気になさらず
少しでしたら、調整できますので
…さて、改めて
ここがどこかお分かりですか?
そうです
ここは私の【星の図書館】、
そしてここは
「プラネタリウム」と言う部屋です
気持ちが落ち着いてきたみたいですね
はい、先日、
あなたの記憶から生まれた
星のアルバムです。その中から
少しだけ覗かせてもらいました。
あなたの、
どうしても向き合いたい記憶
あなた自身がほぼ忘れてしまった
負の感情のみとなってしまった
どう片付けていいか分からないような
そんな気持ちや記憶を
私がほんの少し刺激して
思い出せるように促しました
…よく頑張りましたね
自分のツラい過去と向き合うなんて
それはやろうと思っても
簡単にはできることではありません
そしてこれは、少しずつ
時間をかけて乗り越えていきましょう
一気に向き合ってしまえば、
今のあなたが壊れてしまう
それでは元も子もありません
こう言うのは
筋トレやレッスンと同じです
日々の練習を通して、
少しずつ向き合っていくこと、
それであなたは、
少しずつ強くなる
それは、
今のあなたの強化でもあり
過去のあなたが救われる
あるいは…少し大袈裟ですが
これまでのあなた全てが強くなれる
そんなふうに思ってくれると良いですかね
さて、今回の星のアルバム…
…え?この本を持っていきたい?
それは…良い心がけですが
あまりおすすめは出来ません
この量を一気に思い出すというのは
今のあなたでは苦が重すぎます
…ですが、そうですね
では、先日渡した栞を1枚いいですか?
今回見たこのページに
栞を挟んどきますね
これで、日常の中でも
今日見た場面を完全に思い出さず
ですけどこれまでよりも少しずつ
普段から思い出しやすく
なるようになりますので
過去の向き合いたい
ツライ記憶と向き合いつつ
乗り越えて行けるように
なるかもしれません
いえいえ、
私は少し手助けしてるだけです
『今 1番頑張ってるのは、あなた』
…なんですよ。
それは覚えておいてくださいね?
…さて、
今日は少し長くなりましたね?
そろそろ目を覚ます頃です
はい、あなたさえ良ければ
いつでも来てください
ただそうですね… ひとつ約束を
今回はあなたにとって
ほんの少しだったかもしれませんが
今のあなたにはかなりの負担になりました
なので次回来る時は
ほんの小さなものでも構いませんので
心のお守りになる『幸せなもの』を
ひとつでいいので、持ってきてください
それはどんなものでも構いません
過去の幸せな記憶でも
今ある肌触りの良い毛布でも
お渡しした夢枕でも大丈夫ですが
あなたの心がより回復しやすいように
あなたがより幸せになれるように―――
なのでそれを一つだけ、お願いします
はい、ではまた
心の整理でも
読みたい本のためでも
いつでも来てくださいね
〜シロツメ ナナシ〜
『春恋』
俺は手紙を書いた
字なんて人生でほぼ書かない
だけど、なにか形にしたかった
少しでも、想いを
伝えておかないといけない
そう思ったから―――
彼女の元へ行く
彼女はいつからか
長い寝たきりの状態が続いている
・「? …どうしたの?」
彼女が先に気づく
声は、前来た時より弱く感じた
「…これ」
俺はぶっきらぼうに渡した
・「あら?手紙?
読んでもいい?」
「……いや、今は…
やめてくれほしい
はずい……」
・「っふふ、そう。じゃ、
あなたがいない時に、ね」
まずは受け取ってくれたことに
安心と安堵したが、
ほんの少しだけ寂しくもなった
…柄にもなく
そこから…数週間後
彼女はゆっくりと
時間をかけて、息を引き取った―――
彼女との日々を過ごしたが
俺はどれだけ迷惑をかけただろうか
𓏸「こちら、お手紙になります」
「手紙? あ、ありがとうございます」
病院の先生から渡された
一通の手紙
―――彼女からだった
封筒を開ける
二、三枚になっていて、
その一枚目には
【これは追記の1枚なので
出来れば最後に読んでください】
と、書かれていた
―――――――――――――――
もし万が一、
あなたとまた出会うとするなら
もっと早くに、
あなたとの時間を
過ごせたら良かったのかもね?
もしもそのつもりなら…
その時は今よりも
楽しい時間にする覚悟で
会いに来てくださいね?
もしもそのつもりなら…
私も、負けないぐらい
楽しませる人間に
なってみたいから
それとあなた、
どれだけ字が苦手なの?
時々、「す」の丸が時々 逆よ?
―――――――――――――――
…いけない、
先に読んじゃった
―――――――――――――――
あなたへ
この手紙を読んでるってことは
私はもう旅だったのかしら?
お互い長い間
一緒に過ごしてきましたね
あなたは仕事はできる人
だけど家のことはほとんど任せっきり
正直、ちょっときつかったかなぁ
親の言われで結婚までして
一緒に過ごしてきたけど
良くも悪くもありました
私はどちらかといえば
あなたと一緒に過ごす時間を
もう少しでいいから…
欲しかったような気がしました
―――――――――――――――――
これは私の夢のような話
もしも次の人生があるのなら
私はもっと違う形で
生まれて生きることを
望むかも知れませんね
もちろんなんでも
あるに越したことはないんでしょう
けど、人と人との時間
子どもとの時間は幸せでした
私の入院生活が始まってからも
口数こそお互い少なくて
気まずい日もあったけど
私は意外と、好きな時間でした
あなたとの時間、だったので
次は、あなたとも
もっといい時間を過ごせたら
あるいは、もっとたくさんの
違う人達と過ごす日々を願い
旅立ちます
あなたもどうか、
残りの人生を、幸せにね――――――
――――――――――――――――――
……彼女の本当の気持ちだろう
確かに俺は、
仕事にあけくれる日の方が
すごく多かったように思う。
子供ができてからも
ただひたすらに頑張った
子どもと遊んだりすることや
仕事で稼いでくること
それしか俺には
見えてなかったのかも知れない
…今ならわかる
お前との時間って…
すごく少なかった気がする。
俺ができることは、
もう少ないが…せめて…
願うことなら――――――
―――――――――――――――
娘「おかあさーん!
きょうようちえんでね?
おとこのこから
おてがみもらったの!」
母「あらあら、
随分とおませさんね?
それにこの子はあわてんぼうさん?
「す」の文字、丸が逆になってるわね」
〜シロツメ ナナシ〜
『未来図』
地図はなかった
コンパスだけがあった
思い描けなかった
なりたい自分がいなかった
なりたくない自分から
逃げることで精一杯
コンパスはよく教えてくれる
落とし穴や幸せの方向を
だけど地図は無かったの
1番近い道はわかっても
そこにたどり着くまで
道が全く分からなくて…
1度自分で通って…
自分で道を見つけて行くしかなかった
…そぅ、足こそが…
自分のための道を作っていく
唯一の探し方で
数少ない開拓方法
足と心こそが…地図なのかも
自分で行ったその道は…
行った道なら描けるから
少しずつ…少しずつ……
コンパスの指す方へ
道を作って進んでく
時には1mmぐらいしか
進めない日もあるけれど
私は描く
描き続ける未来地図
〜シロツメ ナナシ〜
『ひとひら』
【あなたなら、大丈夫だよ】
…眠ってる自分に
言葉がひとつ、優しく
舞い降りてきた
それは雪の結晶のように
触れるだけでサッと
消えてしまいそうな
目で見てないと
耳で聞かないと
五感のどこかで感じてなければ
次の瞬間には
消えてしまうような
そんな「大丈夫」だった
…誰かは分からない
なぜ今の自分に聞こえたのかも
ただ…
なんだろう…?
毎日自分に呪文のように
言い聞かせている大丈夫よりも
こんなに消えそうなのに
人から言われる大丈夫の言葉が
こんなにも…
安心で…力強く…
勇気が湧いてくるんだろ…
…目が覚めた
次の1歩が…進める気がする
〜シロツメ ナナシ〜
『風景』
歳を重ねるごとに
変わる風景
…と言うと少し大袈裟?
でもそう言いたくなるぐらいには
ゆっくり ゆっくりと
変わっていってる事に―――
視線が、その高さが違うから
例えば家の玄関を出た時
そこから見える遠くの山の
その見え方が違う
小さい頃は
柵の隙間から除くような感じに見る山
少し成長すると
柵を超えて次は草木の隙間から見る山
また大きくなると
草木も超えて自然体で見る山
その少しずつ超える中
季節によっても変わるから
自分の心によって見え方も変わるから
気がつけば毎日見てた
毎日見てても飽きなかった
…こんな事に気づいた俺は
ちょっとは…ちゃんと心も
成長してんのかな?
それとも心も老け出した…?
…いかんいかんと 顔をあげ
毎日違う見慣れた風景
見慣れたけど見飽きない景色
そう感じながら
今日も自分の一日が始まる
〜シロツメ ナナシ〜