『春恋』
俺は手紙を書いた
字なんて人生でほぼ書かない
だけど、なにか形にしたかった
少しでも、想いを
伝えておかないといけない
そう思ったから―――
彼女の元へ行く
彼女はいつからか
長い寝たきりの状態が続いている
・「? …どうしたの?」
彼女が先に気づく
声は、前来た時より弱く感じた
「…これ」
俺はぶっきらぼうに渡した
・「あら?手紙?
読んでもいい?」
「……いや、今は…
やめてくれほしい
はずい……」
・「っふふ、そう。じゃ、
あなたがいない時に、ね」
まずは受け取ってくれたことに
安心と安堵したが、
ほんの少しだけ寂しくもなった
…柄にもなく
そこから…数週間後
彼女はゆっくりと
時間をかけて、息を引き取った―――
彼女との日々を過ごしたが
俺はどれだけ迷惑をかけただろうか
𓏸「こちら、お手紙になります」
「手紙? あ、ありがとうございます」
病院の先生から渡された
一通の手紙
―――彼女からだった
封筒を開ける
二、三枚になっていて、
その一枚目には
【これは追記の1枚なので
出来れば最後に読んでください】
と、書かれていた
―――――――――――――――
もし万が一、
あなたとまた出会うとするなら
もっと早くに、
あなたとの時間を
過ごせたら良かったのかもね?
もしもそのつもりなら…
その時は今よりも
楽しい時間にする覚悟で
会いに来てくださいね?
もしもそのつもりなら…
私も、負けないぐらい
楽しませる人間に
なってみたいから
それとあなた、
どれだけ字が苦手なの?
時々、「す」の丸が時々 逆よ?
―――――――――――――――
…いけない、
先に読んじゃった
―――――――――――――――
あなたへ
この手紙を読んでるってことは
私はもう旅だったのかしら?
お互い長い間
一緒に過ごしてきましたね
あなたは仕事はできる人
だけど家のことはほとんど任せっきり
正直、ちょっときつかったかなぁ
親の言われで結婚までして
一緒に過ごしてきたけど
良くも悪くもありました
私はどちらかといえば
あなたと一緒に過ごす時間を
もう少しでいいから…
欲しかったような気がしました
―――――――――――――――――
これは私の夢のような話
もしも次の人生があるのなら
私はもっと違う形で
生まれて生きることを
望むかも知れませんね
もちろんなんでも
あるに越したことはないんでしょう
けど、人と人との時間
子どもとの時間は幸せでした
私の入院生活が始まってからも
口数こそお互い少なくて
気まずい日もあったけど
私は意外と、好きな時間でした
あなたとの時間、だったので
次は、あなたとも
もっといい時間を過ごせたら
あるいは、もっとたくさんの
違う人達と過ごす日々を願い
旅立ちます
あなたもどうか、
残りの人生を、幸せにね――――――
――――――――――――――――――
……彼女の本当の気持ちだろう
確かに俺は、
仕事にあけくれる日の方が
すごく多かったように思う。
子供ができてからも
ただひたすらに頑張った
子どもと遊んだりすることや
仕事で稼いでくること
それしか俺には
見えてなかったのかも知れない
…今ならわかる
お前との時間って…
すごく少なかった気がする。
俺ができることは、
もう少ないが…せめて…
願うことなら――――――
―――――――――――――――
娘「おかあさーん!
きょうようちえんでね?
おとこのこから
おてがみもらったの!」
母「あらあら、
随分とおませさんね?
それにこの子はあわてんぼうさん?
「す」の文字、丸が逆になってるわね」
〜シロツメ ナナシ〜
4/16/2025, 5:58:47 AM