また一人で歩いている。家の周りを。
だけどいつもより遥かに広大で、未知の巨大な生物が川に泳いでいる。いつも川、また川だ。今日の川は薄い黄緑で浅く、細長くうねりながら続いていた。以前は浸水深く、海のような濃い青色で透き通っていたはずだが。友人と待ち合わせの小屋に着いたが、この先に行けば、未知の巨大な生物達とあの美しい森林が待っている。素晴らしい写真が撮れるに違いない。しかしカメラが手元にない、スマホも忘れてしまったが充電されたスマホならば直ぐに写真が撮れる。取りに行こう。振り返ると遥かに広くて薄い水色の『物憂げな空』に、焼けるような夕日が山に落ちかけているがまだ間に合う。野生化して汚れ、しかしふっくらと太った茶色のトイプードルが何処からか駆け寄ってきて、萎縮した私の左手をひと舐めした。
という夢を見て目が覚めた。
フったかフラレたか聞かれたので、
フラレた、とその人に嘘をついた。
以来その人には、フラレたイメージで
定着したことだろう。
何かドジを踏む度に、『だからフラれたのか』
とか思っていたら嫌だなと思う。
長年付き合った人を裏切り
結婚間際に無理やり別れた。
『なんだこの女、次に付き合う奴がかわいそうだ』と、付き合って7年半以上ずっと優しくて、面白かった彼にそう言われた。後日に『酷いこと言ってごめん、他に好きなやつがいてもいいから一緒にいて』とも言われた。だけど、私の失態を多方面に嘆いてしまった彼の元へは戻りたくても戻れなかった。だけど今でも連絡しようか考えるときはある。
彼は半年以上待っていてくれたという。待つ女を待っても、待つ男を待っても、何も進みはしないことを知る。
けど彼女を作ったと人づてに聞いて
フラレた、と、いうことにした。
本音を言うと、地獄の底まで追ってきてほしかった。バカみたいだと思う。女々しいとはこうゆうことだ。
彼を裏切って付き合った男には家族がいて、強行突破で別れてはもらえなかった。そうしているうちに関係が続いたまま数年が経って、そのうちに私がその家族に情が沸いてしまい関係を強制終了させた。
以来、一人きりだ。『次付き合う奴がかわいそうだ』の言葉は私を未だに縛り付けて、断り癖がついてしまい、そうやっているうちに結婚するはずだった彼と別れて12年も経過してしまった。その頃赤ちゃんだった友人の子が、今年高校生になってしまった。あと1ヵ月で2年生か。
緩やかに感じる時間は突き進んでいると実感する。
いつまで独身に耐えられるのか。子供が生まれていたなら今頃…もう考えるのはやめよう。
だけど、次に進む道は未だ壊れている。
『0からの』ヘビメタ
私が忠誠を心に誓った上司が、今日の昼休みに…ヘビメタを聞いていた。
その人はいつもイヤホンで何か聞いていた。どんな音楽を聞いているのか、もしくは聞いているフリだけの話しかけるなアピールなのかとかいつも気になっていた。
今日、人が彼に話しかけた後イヤホンをしまう際にスマホの接続が暴走して外に音が流出した。
ヘビメタだった。
彼は、ゆっくりとスマホの音量ボタンを、下げた。
想像すらしていなかった、ヘビメタ。ヘビメタを聞こうとしたことがない私は、ビックリした。帰ってYouTubeでヘビメタを聞いてみた。なんかちょっと違う。彼が聞いていたのはデスメタルだった。ボーカルが力強く歌詞を叫ぶのがそれという。叫んでいたから多分そっちだろう。
これまでは叫ぶのがうるさいと思っていた。だけど忠誠を誓っている上司が聞いているものだと、嫌に感じない自分が恐ろしい。
よく考えれば、ハードロックが彼の背後に流れているようなシチュエーションがよくあるような気がする。
初めてデスメタルに興味をもった、衝撃的な出来事だった。
『誰よりも』、自分を嫌いになってはいけない。
自分が嫌いということは、自分が嫌っている人と同じ人間になっているということだ。
この前気づいて思い出した。自分の事が好きになっていく時期があったなと。今は自分が嫌いだった。良いことも何もない、楽しくもなかった。あいつが好きだ、でもあいつに対する自分の行動が嫌いだった。それにやっと気がついた。あいつを好きなら、あいつが好きな自分が嫌いとか、あいつに失礼だから。自分が嫌いな自分の行動はやめようと思う。
自分を好きになっていく時期は、いつだったか…
今は好きになるとかどうでも良いから、嫌いな自分を見つめ直してみようと思う。
いつも文句を躊躇せずに言ってくる心理を突いてくる女の子が会社にいて、何故かこの前怒られた。「あなたのために用意したの、受け取って下さいって言わなきゃ分からないでしょ。はい練習、言ってみて」と唐突に。言えなかった。その日から、彼女の言葉で気持ちが揺らいだ。乱暴だが本当に良い子で、私のことを毛嫌いするくせに、『あなたはすごく良い子なのに分かってもらえないと悲しい』とか本気でちぐはぐを言ってくる。
なぜあの時そんなことを言ってきたのか。職場の仲間だが班が違うためにほとんど会わないけれど、私の醜態の全てを知っているようだった。知っているのだと思った。
だから今年は、言葉で感謝の気持ちを一言だが本気で伝えることができた。それは彼女の言葉のお陰だと思う。これを彼女に伝えたら「死ね」と本気で言ってきそうな人である。
私がチョコを渡した彼は、最高の笑顔と一緒に素直な『ありがとう』を心から返してくれた。私にはいつも怒っている、いつも不機嫌で暴言なんか聞きあきるくらい吐いてくる。この人の笑顔が見たかった…もうなにも要らない、それだけで私の心は満たされてしまったのだから。こんなに満たされた気持ちになったのは10年ぶりくらいだろうか…たった一言のありがとうがこんなにも嬉しかったことが、これまでにあっただろうか。その事に感激して、嬉しくて仕方がなかった。これを読んでくれたあなたは、こいつはこの男に洗脳されていると思うに違いない。