オレが目を覚ますまでに、ボスは何を考えているのだろうか。それとも夢でも見ているのか。
それはオレには知る由もない。
入院なんて人生デ一度もしたことがないので病室のことなんて全く分からないけど、個人的にはかなり質素でつまらなさそうだと思う。しかも、病院にいるのだから、何かしらの病気を抱えている。ネガティブなイメージが大半だ。
でも、考え方を変えると、病室は日常から少し離れた空間で、自由な時間が増えるのではないか。好きなことをしたり、寝たりと自分のやりたいことができる。病気という辛い状況を少しでも和らげてくれるのが病室なのではないかと僕は思う。
「ボス〜、明日雨ですって。これじゃあせっかくの旅行が台無しですよ」
「そうだなぁ、まぁ、旅行の日程は変えられん。雨でも行くぞ」
「明日晴れだったらボスと一緒に甘味いーっぱい食べれたのに」
「甘味巡りはまた今度できるだろ?我慢しろ」
「ちぇ」
津詰はぶっきらぼうに言葉を吐き捨てた。
翌日
「え、なんでこんなに晴れてるの」
「ボス、良かったですね。俺といっぱい甘いもの食べられますよ!幸せ者ですね!」
「エリオ……?どうしたんだ?そんなしょげた顔して」
「さっき上層部の人に怒られたんですよ。ボスと社内でくっつきすぎって」
「ふーん、そんなこたぁ、気にせんでもなんとかなるだろ?ほら、仕事すんぞ」
「だから、ボス、近づきすぎたらダメですって!」
襟尾の制止を振り切って津詰は襟尾に近づく。いつもの襟尾なら喜んで受け入れるのだが、今日の襟尾は違う。
「お前さんが俺を拒絶するなんて珍しいもんだな。まあ、確かにくっつきすぎだな。」
津詰は残念そうにその場を離れた。
本当は近づきたいのに、あんな些細なことで離されるなんて。もういい。今はひとりにさせて。
「オレらもう何徹目ですか?」
「……んぁ、まだ徹夜なんてしてねぇ、だろ、」
「ボス、徹夜のし過ぎで完全に頭壊れてますね」
「エリオぉ、仕事ぉ、しろ……」
津詰の目に光はなく、虚ろになっている。
同様に襟尾の目もくすんでいる。
エリオのポジティブお化けの澄んだ目はどこへ行ってしまったのか。
「ボス、流石に休憩取りましょう。……ボス?」
襟尾が話しかけても応答がない。
沈黙の後、寝息が部屋に響いた。
(ボス、寝ちゃってる……)
襟尾は津詰の寝顔をまじまじと見つめたあと、そっとブランケットを津詰の背中にかけた。