ねぇ、どうしたの?
傘も差さずにこんなところで。
勇気を出して告白したけど振られた?
しかも相手は自分の親友に片想いしているって?
そうだったのか。それは辛かったね。
うんうん、気が済むまで泣くといいよ。
どうせ涙か雨粒か誰にもわかりやしないし。
なら、雨が止むまで僕の話を聴いてくれる?
暇つぶしに付き合ってよ。
僕も、今すぐには家に帰れなくてさ。
このあいだ、両親に「なんで相手と結婚を決めたのか」訊いてみたんだ。あ、父さんと母さん、別々にね。
二人とも素直になれないことは子供の僕が一番わかっている。
というわけでそれぞれ一人の時を狙って訊いてみた。
母さんは言ってたよ。父さんの優しいところが決め手だって。
たとえ、自分の想いが叶わなくとも、大切な人たちの幸せを願ってやまないところだって。
その分、「私がこの人を何があっても幸せにするんだ」って燃えたらしいよ。
この人が泣いた分以上に私が笑顔にしてみせるって。
父さんは長い間、母さんの親友に片想いしてたんだ。
そして意を決して告白した。結果は玉砕だった。
でも振られた次の日も恋敵に普通に親友として接していたんだって。
すごいよね。僕だったら親友の顔も、片想い相手の顔も見られないかもしれない。
僕もそんな強い父さんのことが大好きだよ。
母さんの愛は大きいからね。父さんも、親友も、その相手も全部ひっくるめて愛してる。
父さんが勝てっこないよ。
まぁ、母さんの愛に気づいたあとの父さんもなかなかすごかったらしいけどね。父さんは恥ずかしかったのかあまり自分では話してくれなかった。だから僕が聴いたのはほぼほぼ母さんの惚気だったわけだけれど。
誤解されたくなければ自分で説明したほうがいい。
相手の言い分に反論しないのは肯定だと僕は思うよ。何自分の息子にいいかっこしたがってるんだとも。
お、雨が止んだね。そろそろ解散しようか。
通りすがりの独り言に付き合ってくれてありがとう。風邪引かないようにね。お互い様か。
じゃあ、素直になった父さんを未来で待ってるね。
/未来の記憶
いつからか、自分にそれがあることを忘れていた。
いや、忘れようとしていた。
無いものは傷つかない。
無いものは奪われない。
無いものは守らなくていい。
まだあると気づかせてくれたのは貴方だった。
/ココロ
また来年もここで君と眺められたらいいなぁ。
/星に願って
黒から紺、紫、橙と、空の色が移り変わっていく。
仕事で疲れ切った僕は揺られながら、ただそのグラデーションを眺めていた。
この電車はまたたくさんの新しい一日を乗せて街を巡るのだろう。
おはよう、おやすみ。
/静かな夜明け
少し強くなるために、必要な助走なので
放っておいてください。
/優しくしないで