うたた寝

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8/6/2025, 6:11:56 PM

階段を駆け上がる。
もう何段目かもわからないまま。
見上げれば、入道雲がぐらりと膨らんでいる。
頭上からは蝉時雨が空気そのものを震わせていた。

あなたの銀糸の髪が風に翻り、その軌跡に細やかな光の粒が散っていった。
段差を跳ねるたび、光は一瞬だけ強く瞬き、そして夏の空気に溶けて消える。
眩しさに目を細めても、僕は視線を決して逸らさなかった。
たとえ夢でも、幻でも、逃したくなかった。
夕陽が傾く。
光と影が混ざり合い、僕らの輪郭はさらに曖昧になっていく。

あなたの背中は、まるで茜空そのものを渡って行くようで――。
一歩近づくたび、また遠ざかる。
焦燥と渇望が、胸の奥でせめぎ合った。

「……待って、」

声は風に呑まれた。
ただ、その背中がゆらりとひときわ強く光った。

世界が揺らいだ。
蝉時雨が一瞬遠ざかる。
夏のざわめきが静止し、時間までもが息を潜めた。
突然の激しい耳鳴り。抗うように、僕は視線を上げた。


あなたが、こちらを振り返っていた。
銀糸の髪が夕陽を受け、炎の縁取りのように燃えていた。
風に揺れるたび、光と影が絡み合い、その姿は夢のようだった。
あなたはゆっくりと微笑んで、迷わず手を差し伸べてくる。
その指先は空気を震わせ、触れるか触れないかの距離で止まっている。
儚いはずなのに、その一瞬の気配が、僕の胸の奥を強く打ち抜いた。

『僕を置いて、先に行って――』

あの時、最初に手放したのは僕の方だった。
その言葉はあなたを縛らないためのものだったのに。
結果的に、僕自身を孤独に閉じ込めただけだった。
一人では、もう気が狂ってしまいそうだった。
呻き声が僕の口からこぼれた。

一歩、踏み出す。
息切れも、恐怖も、もうなかった。
指先が触れ合った瞬間、螺旋階段は途切れた。
境界線が滲み合い、世界がほどけていく。
きっと、あなたと二人なら。
夢の底へ落ちても、何度だって。
例えこの夢が、何度繰り返してもこの結末にしか辿り着けないものだとしても。
きっともう何も、怖くない。

光に溶けるような淡いその笑みが、
僕の胸の裡を、ひとつずつほどいていく。


「――さあ、また一緒に悪い夢を見ようよ。」



――

#またね

4/24/2025, 2:09:46 PM

今際の際で
しずかに微笑むあなた

雨上がりの夕景に
ライカに
刻み込む
スプートニク
たましいの墓標

震える声を思い出す
濡れたつま先
瞬きさえ惜しいの
明日笑うために
今、泣かせて


#めぐりあい

2/13/2025, 3:10:53 PM


夜明け前に月を追った
ほどかれた夢の中
しじまの波打ち際

温度のない世界であなたの瞳だけ綺麗
絡めた指先の一瞬
例えば、他愛ないハミングさえ

湧き上がる熱
小さな奇跡
僕らは明日死ぬだろう
だけど知っている
変えられるのはきっと未来だけだと

1/24/2025, 6:47:29 AM

愛さなくたっていいの
わたしの胸に宿った
小さな灯りが消えないように

愛されなくたっていいの
過ぎ去った言葉たちに
すがりたくない

怖くてたっていいの
おかしいね

やわらかな罪
きれいじゃないその形に
もう、泣いてしまいたい



#瞳をとじて

1/20/2025, 1:30:28 PM



『幸せになってね私がいなくても』

これは最早呪いでしかない
もう二度と交わることのない道で
途方に暮れている僕を嘲笑う
たくさんのものを置いて舞台を降りた
あなたが遺した馬鹿げた言葉

ふざけるなよ

無様に踠いて
泥臭い方が僕達によく似合う
例えこの選択が間違いだとしても

〈あなたを愛している〉

だから、もう一度手を伸ばす


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