忘れないでと君は言った。
髪の匂い、震える吐息、埋めた中指の熱さ。どれも鮮明に覚えている。その傷跡に口付けをした。
次に目が覚めたら、他人のように笑って。
次に目が覚めたら、絡めた指を振りほどいて。
次に目が覚めたら、要らないものみんな壊してしまおう。
昨日出来た水たまり。
汚れた足首。
糞まみれの中で「ただ愛されたい」だなんてほざいてみる。
もがいていた方が綺麗だって?
そんなのどうだっていい。
全部、ここに置いていく。
♯あなたがいたから
目隠しされて冷たい岩の上に横たわる
あなたに言わなければならない
美しい嘘すら波音にさらわれて
口元に微笑をたたえ
静かに還ってゆく
どうか、どうか。
代われるならば僕の
体ごと全部あげるから
涙すら不浄
その抉られた傷の中にさえ
僕はいない
何者も繋ぎ止められない
あなたが居ない明日に
どう意味を見い出せばいい
♯沈む夕日
適当でいい
そんな真面目に生きるなよ
潔癖だと辛いだろ
期待することに疲れて
失うことにも慣れて
乾いた笑顔もいらない
神様ならここにいない
一緒に汚れようよ
優しく抱きしめてあげる
何回だって言ってやるから
いつか死ぬぼくらのために
「だから、そこで待っていて」
♯my heart
すべて受け入れることが愛だと思っていた。
確かにそんな時期もあったね。
傷跡をなぞる指先はどこまでも優しいくせに、その言葉でぼくを永遠に縛ろうとするから。
悪いけど、もうさよならだ。
(きみのことなんか、早く忘れたい)
♯ love you
「ねえ、おいで?」
彼は優しく笑って両手を広げた。
私は思わず怯む。
「ちょっと、みんなにそんなこと言ってるんじゃないでしょうね?」
疑り深い私に、彼は呑気な声で
「大丈夫、僕は君一筋だよー」
と答える。一体どうなんだか。
二人でブランケットにくるまって、ベランダに出た。星がとてもきれいだ。澄んだ空気が、私の肺の中に入って黒いものを少しずつ浄化してくれる。思わず鼻の奥がツンとして、じわりと涙が溢れそうになる。
背後で彼が少し笑った。
「泣いてるの?」
「泣いてない」
「そんな君には、おまじないをしてあげよう〜。ちちんぷいぷい」
「何それ」
「病める時も健やかなる時も〜」
「…ちょっと待って」
抱きしめられる力が強くなった。私は思わず下を向いた。彼は耳元で囁く。
「 」
「…ばか」
我慢できずに私が顔を上げると、はにかんだ様子の彼と目が合った。
♯伝えたい