3/1/2023, 10:52:13 AM
体が欲しいからキスをする。
心が欲しいから愛を囁く。
そうして、私達は恋に落ちる。私達はそういう生き物。
だから私は貴方に恋をした。
でもきっと貴方を永遠に好きでいることはできない。
どれだけの愛を重ねて捧げて願っても、私は貴方にはなれないのだから。
何度、唇を重ねても、言葉を重ねても、すべてを共有できない。私達は、そういう生き物だから。
でも、だからこそ、私達はまた出会う。
何度も、何度だって、会いたいと思ってしまう。
今夜もその果てのない欲望を持て余しながら。
私達は愛を重ねる。
#欲望
2/28/2023, 3:44:11 AM
彼女を見ている。
窓を閉め切った四畳半の部屋は静かで、まるで世界全体から疎外されているようだ。私と彼女以外の存在なんて一つも無いような、そんな感覚。
長針と短針が同時に12の文字を越える瞬間、私は彼女の唇に触れた。彼女の唇の味は甘く、そして拙い。頭の中で何かが弾けて割れる。粉々になって砕け散る。
私のすべては彼女のものだった。
肩までに切り揃えられた、きめ細やかな黒髪。夜が溶けたように深みを帯びた瞳。白い肌。赤い唇。
爪の先から瞼の裏側に至るまで、そのすべてがどうしようもないほど愛おしく、そして憎らしい。
指の長く、洗練された手が、私の頬に触れる。その薬指に嵌められた指輪が、冷たい。
遠くに聞こえるパトカーのサイレンが、部屋の静寂に邪魔をする。朝は来る。夜は終わる。拒んでも、抗っても。
だから今、この瞬間だけは。
つまらない現実など忘れてしまいたい。
退屈から逃げたい。
私のすべても彼女でありたい。
目を瞑る。愛情と、憎悪と、その間にある名前の無い感情すべてを呑み込んで、私は彼女にキスをした。
#現実逃避