顔の表面に冷たい空気を感じながら、ゆっくりと重たい瞼を開ける。寝室はまだ暗く、未だ夜であると錯覚しそうになるが、すぐそばで充電をしているスマホを、ぼぅと片方で手に取り、画面を見る。画面の時刻は朝の五時を示していた。
毛布から出たくはないが、起きなければならない。しかし寒い。また眠るには時間はあるものの、二度寝は時として遅刻の原因になりかねない。たまには熱いコーヒーを淹れながらゆっくり支度をするか、とのそのそ布団から這い出る。冷えが一気に上半身、手足、そして全身へと広がっていく。裸足の足先は寒さに加えて痛みも伴ってきた。半ば駆け足で部屋の照明をつけ、隅に置いてあるヒーターを間髪入れずに電源を入れた。
部屋の空気が暖まるのを身体を縮こませて待ちながら、手足を小刻みに震わせる。
こういう時ばかりは、つい先日までの猛暑の日々が恋しくなる。あの唸るような暑さを、今この場へ持ってくれば、寒さと中和して温もりになってくれるだろう。そうすれば、暖房代が浮くのにな、と思わずにはいられない。ヒーターの電源が入り、ようやく起動し始めたのを確かめて、やかんに冷水を入れたのであった。
【ぬくもりの記憶】
指先が
痛いくらい冷たい
手袋は つけない
否 つけられない
冬空の下ですら
誰しもスマホを
手放せない
【凍える指先】
北の国
誰も足を踏み入れていない
銀世界へ
埋もれるくらいの雪をかき分けながら
視界に飛び込む白に目を細め
さらにさらに 前へと進む
あてのない旅は きっと
まだまだ続く
【雪原の先へ】
誰もかれもが
蒸気機関車になる
そんな 季節
寒風の中
学校か職場かに
向かって帰る
【白い吐息】
使わなくなった便箋がでてきた
捨てようかな と思ったけど
お気に入りの柄だし
自分あてに手紙を書いてみる
私へ
お元気ですか
今 何が楽しいですか
今 何に夢中ですか
これから どうしたいですか
未来の自分に託し
押入れの奥へ放り投げた
【秘密の手紙】