僕には「それ」は
あるのだろうか
子供の頃に描いていた「それ」と
今の「それ」は きっと違うだろう
子供の頃の「それ」は
眩しくて 絶対良いものだと信じていた
今はどうだろうか
今の「それ」は 暗くて
怖くて 考えたくもない
だから ここへ来た
俺には「それ」は
ないのだろう
思えばガキの頃から 碌でもない人生だった
傷つけられ 傷つけられまいとして
自らも傷つける日々
今だって 屑みたいなことをして
塵みたいな金で 食い繋いでいる
今日も仕事で ここへ来た
僕はこれで「それ」が終わる
俺は今日も「それ」がない
これはとある二人が出会い
繋がりを経る「それ」の
前の噺
【未来】
ある町の話。
人と人ならざるモノが住まう町の話。
人ならざるモノとはすなわち「神」や「妖」と呼ばれたモノだった。
両者とも同じ人間と異なる存在であるものの、人に信じられ祀られることで人に尽くすモノを「神」と呼び、人に害をなすモノを「妖」と呼ぶような違いがある。
町では各所で神や妖が頻繁に見られたり、数々の伝承や言い伝えが存在していたりと有史以来、神妖の存在は町と町の人々にとっては無視することの出来ないものと今日までなっている。
逢魔時。
空が揺れる。
空が異様に赤くなるのは何も日が沈んだからだけではなかった。町に潜む妖が跋扈する刻だ。大抵の妖は町に住まう神々によって人間へ害が及ばないようになっているが、時折、神の目を掻い潜って害をなす妖がいる。所謂「神隠し」と呼ばれる失踪事件がこの町で起きたとしたら、妖の仕業なのである。
赤い空の向こうで何者かが嗤う。
去年のことである。
【1年前】【あいまいな空】
ふん
移り気 浮気 か
随分と勝手な印象だ
土の性質によって
花の色が変わるというのに
人間というやつは
一方的な思い込みで
言の葉を花に与える
昔 ある先生がそう嘆いていたのを
ビニール傘越しに咲いている
こいつを見て思い出した
こいつは知らぬ存ぜぬで
ピンク 青 白と
好きに咲いている
そんなこいつが
自分が好きだ
【あじさい】
世の中というやつは存外
上手くできている
肉が好きで
ピーマンが嫌い
ピーマンの肉詰めは
食べられる
夜更かしは好きで
朝起きるのは嫌い
必ず昨日は終わり
必ず明日が始まる
保健室の先生は好きで
生徒指導の先生は嫌い
労りと観察という
いわば生徒にとっては飴と鞭
あの子は好きで
あいつは嫌い
密かに想いを寄せていて
あいつもあの子に想いを寄せている
全く 存外 世の中
上手くできていない
【好き嫌い】
水平線の向こうを見る。
ビルとビルの間から見える陽が茜色に染まっている。
まるで燃えているかのようだ。
高低差のある道をひたすらに進む。
久々に仕事を定時で終えた。
これから買い物をして適当な献立を考えて、それから余暇は何をしようかと考えながらの帰路が一番好きかもしれない。
今日は夕日が見える間に帰ることができた。
私は一日の中では夕方が一番好きだ。
日が沈み、グラデーションの空が徐々に、紺色から夜空になるこの僅かな時間の空は、まるでキャンバスに広げられた鮮やかな絵の具の色が少しずつ滲み、溶けていくようで美しい。
今歩いている道には私の他には誰もいない。
私の住む街は坂が急な場所が多い。
歩いたり、自転車を漕いでいる時なんかは、なかなかに大変な地形だが、道の高低差のお陰でこうして天気が良いと、綺麗な夕日に出会えるのだ。
私の街で
好きな空をながめながら
好きな時間帯に
好きなことを考える
そんな至高の瞬間を噛み締めながら、私は茜色に向かって歩みを進めたのだった。
【街】